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北島康介、逆境と「信は力なり」。
2016年4月8日、ラストレースの記憶。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAFLO SPORT

posted2020/04/08 11:00

北島康介、逆境と「信は力なり」。2016年4月8日、ラストレースの記憶。<Number Web> photograph by AFLO SPORT

2016年4月8日、最後のレースとなった日本選手権男子200m平泳ぎ決勝を終え、北島はプールに向かって深々と一礼をした。

北島の言葉と「信は力なり」。

 前年の2015年、北島は危機を迎えていた。少なくとも周囲にはそう映っていた。

 休養していたシーズンを除き、2003年から出場していた世界選手権の代表を初めて逃した。選考大会の日本選手権後、引退を示唆と書く記事もあった。

 それを覆すように、現役続行を表明する。

 その時点で32歳だった。長年、自分を追い込むように厳しい練習に取り組み、心身ともに疲労の蓄積もある。ましてや、数々の輝かしい成績を残している。退いても不思議はない。

 にもかかわらず、5度目のオリンピックを目指す根底にある思いの一端を、北島はこう表現した。

「またいい記録で泳げるんじゃないか、そういう気持ちを持っていますけどね」

「信は力なり」という、スポーツ界で広く知られた言葉がある。

 北島のひとことに、その言葉を連想し、また、北島の逆境での強さを思った。

挑戦し続ける意志の強さ。

 2002年、初めて世界記録を出したのは、右ひじの故障で棄権を余儀なくされた大会から役ひと月後の大会でのことだった。

 北京五輪の100mでは予選、準決勝ともに全体の2位通過であったが、決勝で世界新記録を出しての金メダルだった。

 そうした強さを支えているのは、自身の可能性を信じる力だ。

 あらためて思わずにいられなかったのが、「またいい記録で泳げるんじゃないか」という言葉だったし、挑戦し続ける意志の強さをも思わせた。

 それでも5度目のオリンピック出場への挑戦は、かなわなかった。

【次ページ】 北島は、丁寧に、プールに一礼した。

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