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北島康介、逆境と「信は力なり」。
2016年4月8日、ラストレースの記憶。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO SPORT
posted2020/04/08 11:00
2016年4月8日、最後のレースとなった日本選手権男子200m平泳ぎ決勝を終え、北島はプールに向かって深々と一礼をした。
北島は、丁寧に、プールに一礼した。
でも。
200m決勝のあと、ゆっくりとプールから上がると、北島は、丁寧に、プールに一礼した。
静まり返っていた場内に、拍手が起きた。拍手が広がった。やまないように、拍手は続いた。出場している選手が籍を置くスイミングクラブや学校の水泳部の応援者、一般の観客、誰もが1つになったかのような、拍手だった。
オリンピック出場を逃したことで損なわれることのない、自分をとことん信じて泳ぎ続け、だからただ挑み続けてきた過程の過酷さとそれを実践してきた事実。1、2分ほどで終わるレースまでの時間。それらへのねぎらいと称賛のようであった。
オリンピックの決勝レースなどと並び、忘れ得ぬレースだった。
「自分の記録を超えていきたいスポーツ」
レース後、引退の意志を表明した北島は、その2日後、記者会見を開いた。
最も印象に残るレースについて尋ねられると、こう答えた。
「そうですね……。ひとつあげるのは難しいです。もちろん金メダルを獲ったレースがいちばん興奮できましたけど、どのレースも印象に残っています。
小学校のときに優勝できなかった試合、全国中学で初めてライバルに勝った試合とか。終えてみると、どのレースも思い出深いです」
金メダルと記録についての思いを聞かれると、こう答えた。
「オリンピックでの金メダルは別ものでうれしいです。自己ベストは一生ついてくるもの、そこをどうしても超えたいと思って一生懸命練習しています。
いちばんになりたいというのはその後かなと思っています。水泳選手は誰しもが記録に執着心があるのではないかと思うし、みんな自分の記録を超えていきたいスポーツです」
自分を超えようとしてきた北島ならではの言葉だった。