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志村けんさんと伝説の「10・8」。
長嶋茂雄と桑田真澄の“ケンちゃん”。 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byKeiji Ishikawa,KYODO

posted2020/04/03 11:50

志村けんさんと伝説の「10・8」。長嶋茂雄と桑田真澄の“ケンちゃん”。<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa,KYODO

3月29日に逝去した志村けんさん(左)。「10・8」決戦に勝利し、抱き合う巨人の桑田と村田。桑田にとって「ケンちゃん」といえば志村さんのことだった。

「ケンちゃん! 明日はやるよ」

 部屋に入って長嶋さんの話を聞いていると、そこに1本の電話が入った。長嶋さんが受話器をとる。

 そしてあのちょっとハイトーンな口調で、こんなことを電話の相手に向かって話していたのだという。

「ケンちゃん! 明日はやるよ。俺たちは絶対にやるから!……ありがとう!……うん、ありがとうね!」

 そんな会話を聞くともなしに聞いていた桑田さんだったが、受話器を置いた長嶋さんがいきなり、桑田さんにこんなことを言ってきたのである。

「志村……けんさんですか?」

「ケンちゃんだよ、ケンちゃん! 分かるだろう?」

 そう問われた瞬間、しかし桑田さんの頭には「ケンちゃん」が誰なのか、咄嗟には思い浮かばなかったという。

 そうして……桑田さんが絞り出した答えがこうだった。

「志村……けんさんですか?」

 桑田さんにとっての咄嗟の「ケンちゃん」は、まさにコメディアンの志村けんさんだったのである。

 実は電話の主は昭和の大スターだった高倉健さんだった。以前から長嶋さんとは交流があり、決戦を前にわざわざ激励の電話をかけてきたというのが真相だ。

「ケンちゃんって言ったら高倉の健ちゃんだろう!」

 桑田さんの答えに長嶋さんはこう言って目を剥いていたというが、桑田さん自身はこのときに自分が志村けんさんの名前を口にした理由をこう分析していた。

【次ページ】 「一番、大きな存在が志村けんさんだった」

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