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年齢を重ねても記録は伸ばせる!
60代の女性マラソン世界一が語る極意。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byMiki Fukano
posted2020/03/30 15:00
58歳だった2017年大阪国際女子マラソンで2時間59分36秒と悲願のサブスリーを達成。その後も自己記録を更新中。
短い距離では若者に勝てなくても。
私が日頃、取材しているトレイルランニングの世界には、100kmや100マイル(160km)、300~400kmといったレースが数多く存在し、出場を目指す人々も少なくない。
比較的短い距離で標高差のある山域を駆け抜けるレースでは、心拍機能や瞬発力、動体視力といった身体能力がカギを握るため、20代~30代前半の選手の活躍が目立つ傾向にある。
一方で競技時間が1日から数日に及ぶウルトラトレイルレースでは、持久力に加えてセルフマネージメント力や経験値、メンタルが競技を左右することから、活躍する選手の年齢層は高くなっていく。
「みんな燃え尽きちゃうのよ」
最もメジャーな100マイルの国際レース「UTMB(モンブラン山麓をシャモニーから1周するレース)」には、2006年、2007年と連覇を果たしたイタリアのマルコ・オルモというレジェンドがいる。そのときの彼の年齢は57歳と58歳だった。その後、UTMBでは若年齢化と高速化が進み、ベテラン選手の上位入賞は以前ほど簡単ではなくなっているが、このマルコ・オルモに大きな影響を受けたのが、2019年に50歳で UTMBに再挑戦した鏑木毅だ。
プロトレイルランナーの鏑木は40歳のとき、日本人で初めてUTMB 3位入賞を果たした。その輝かしい記録と記憶にいつしか自らが飲み込まれ、時が止まってしまったという。そこから脱却して新たな一歩を踏み出そうと、約2年半の準備期間をかけて、7年ぶりにスタートラインに立った。結果は125位。かつてのような成績を残すことはできなかったが、チャレンジを終えた今はおそらく次の目標を模索していることだろう。
「みんな燃え尽きちゃうのよ。私の場合も気づいたら同世代が走らなくなっていてね。そうしたら一番になれたの」
弓削田さんはそう言った。人にはそれぞれのピークがあり、多様なベストパフォーマンスの形があることを、弓削田さんは伝えてくれている。