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羽生結弦、宇野昌磨、紀平梨花……。
世界フィギュア中止、虚無感と安堵。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2020/03/13 17:00
世界フィギュアの開催中止を受けて、羽生結弦は残念な思いの一方、安堵する一面もあることを語った。
「挑戦すらできず、ひたすら虚無感でいっぱい」
怪我などさまざまな障壁にぶつかりつつ、ようやく自身の求める滑りに近づき、2年ぶりの世界選手権代表をつかんだ樋口新葉。
「今までは挑戦して失敗して悔しい思いをしてきたけれど、今回は挑戦すらできず、ひたすら虚無感でいっぱい。大変だけど、みんなで頑張っていきたい」
中止の報を受け、自身のツイッターで記した。
おそらくは状況を考え、いち早くカナダ入りしていた紀平梨花もまた、大会に懸ける思いは強かっただろう。
2月の四大陸選手権で連覇を果たしたあと、紀平は言った。
「たくさんやることがあります。(帰国しても)すぐに練習をします。いつも通り、休みはあまりないと思います」
「残念」と「安堵」、羽生の2つの言葉。
羽生結弦もコメントを寄せている。
「中止になってしまったことは残念ではありますが」の出だしで始まったあと、こう語っている。
「選手のみならず、観に来られる皆さまや大会運営のスタッフの方々への感染拡大のリスクが、少しでも減ったことに安堵する気持ちもあります」
選手たちはシーズンを通じて、世界選手権という舞台を目指し、日々取り組んできた。選手ぞれぞれに紆余曲折があり、その末に出場する権利をつかんだ。
その時間があるから、無念の思いは誰にもある。
一方で、ただ無心に大会へ向かうことのできない現在がある。それもまた、選手たち誰もが感じていたことだろう。「残念」と「安堵」、羽生の2つの言葉は、他の選手にも通じる、率直な思いではないか。