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勝負師か、田舎のおっちゃんか。
ノムさんの側近が語る“振れ幅”の魅力。
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/03/13 18:00
1992年春のキャンプ時に撮影された写真。前年にヤクルトを11年ぶりのAクラス(3位)に導き、野村のID野球への注目が高まった。
野球界には教え子がたくさん。
現役時代よりも、引退後に野村との関係を深めたのが橋上秀樹だった。野村が楽天監督だった2007年から2009年にはヘッドコーチを任されるほどの信頼を得た。
「野村さんはいつも、『プロ野球選手である前に一社会人であれ』と口を酸っぱくして言っていました。その教えを受けて、現在の球界には野村さんの教え子がたくさん活躍しています。僕自身も野村さんから、多くのことを教わりました。野球のことはもちろん、人生を豊かにしていく術です。自分はまだ五十代半ばだけど、最終的に豊かな人生を送れるように、野村さんの教えとともに生きていきたいと思います」
意外にも、誰よりもゲンをかつぐ。
そして、三者がともに口をそろえたのは、「あの人ほどゲンをかつぐ人はいなかった」ということだった。「ID野球」を旗印とし、科学的根拠、数字的裏付けを求め続けた野村は、意外にもジンクスやゲンかつぎにこだわる人物でもあった。
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「マネージャー時代のことです。試合前になると、野村さんの下にはさまざまな来客がありました。中には大手企業の方や偉い人もいました。必ず、『監督にごあいさつを』となるんですけど、野村さんは決して名刺を受け取らずにそっぽを向いてしまうんです。ああいう感じでぶすっとしているから誤解されるんですけど、『試合前に名刺をもらうのは縁起が悪い』と頑なに信じていました」(松井)
「ノムさんは、試合前にトイレに行くことをすごく嫌がった。夕方以降になると、あの人は大をしない。自分だけならまだいいけど、それを人にも強制するんだよね。『トイレに運を落としてどうするんだ』って怒るんだよ。そうは言っても生理現象や。途中で催すこともあるでしょ。そういうときはみんな隠れてトイレに行ってたんちゃうかな?」(伊勢)
「野村さんのゲンかつぎは有名でした。勝ち続けている間はパンツを穿き替えないとか、負けた日には行きと同じ道を通って帰らないとか……。たとえ遠征先でも、バスやタクシーの運転手にお願いして道順を変更していましたからね。沙知代さんからもらった高価な腕時計も、『この時計を身につけてから負けが込んでいる』という理由で返品したこともありましたからね(笑)」(橋上)