マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
パの新人王に推す、狂気の右投手。
津森宥紀を3位で取れたSBの幸運。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/03/11 11:40
津森宥紀のリリーフ適性はいかにも高い。大学投手として9人目、という評価を覆すチャンスは多いにある。
「津森、あいつ、爪ないんですよ」
こういうヤツが、デカイこと、やってのけるんだよな……。
そんなことボンヤリ考えていたすぐ横を、東北福祉大の関係者が叫びながら通り過ぎた。
「知ってます、安倍さん? 津森、あいつ、爪ないんですよ! 指の爪ないのに147キロや! あいつ、ほんまおかしいですよ!」
聞けば前の試合中に、ダクアウトで右手人差し指の爪がはがれてしまったという。
それでも、「全国」が懸かった決勝戦に志願でリリーフ登板。痛くないはずないのに、指先感覚だって微妙に違っていたはずなのに、いつも以上の猛烈投球で最高峰へ駆け上る。
この狂気をよし! とするのか、大切な舞台でエースのくせに大切な指先を……それを「不注意なヤツ!」と見損なうのか。確かに、評価の分かれるタイプではあった。
それが、「大学投手5人目」という指名順位になったのかもしれないし、快速球以外、特別な変化球が見当たらないことも、その理由になったのかもしれない。
しかし、これだけ打者の手元までエネルギーを失わない速球があれば、曲がりの大きな変化球がなくても、1イニング3人20球、打者を圧倒できよう。
ツーシームか、カットボールか、わずかに密かにスッと動く「ストレート系変化球」を1つか2つ。こいつがあれば、鬼に金棒か。
能力と、巡り合わせが生む新人王。
今回の「勝手に新人王探し」。
セが巨人・戸郷翔征。パがソフトバンク・津森宥紀。
たまたま、とんがった投げっぷりの右投げサイドハンドがかぶったが、今のプロ野球界にあまりいないタイプの2人でもあろう。
去年の今ごろ、同じような「新人王占い」で、セは阪神・近本光司! と言いきって大笑いされたことがあるが、果たして今シーズンはどんな展開になるのか。
どんなに優秀な人材でも、そこに強力なレギュラーがいたら、なかなか能力を発揮できないのも「プロ」のきびしいところだ。そういう意味でも、ハマりそうな2人。
まだいつ始まるともわからない今年のプロ野球だが、選手たちが「その時」をめがけて腕を撫していることには変わりはない。