オリンピックへの道BACK NUMBER
非エリートが154連勝王者に勝利。
柔道・影浦心「自分を信じる力」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2020/02/17 11:30
リネール(左)を破った影浦。リネールは2010年9月、上川大樹(ロンドン五輪日本代表)に敗れて以来約10年ぶりの黒星となった。
影浦は一番手と目される選手ではない。
影浦は、この階級の日本選手で、一番手と目される選手ではない。
リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した原沢久喜が東京五輪代表の最右翼と言われてきた。
現に、昨年の世界選手権100kg超級代表も原沢であった。影浦は団体戦の一員として出場するに甘んじた。
追いつき、逆転して東京五輪代表になるためには、とにかく世界で勝てることを結果で示していくほかない。
だからこそ、パリでは好成績をあげたかった。
そして、世界の誰もが成し遂げたいと思っていた快挙を成し遂げたのである。
リネールは「自分しか倒せない」。
畳を離れれば柔和な物腰の影浦は、一方で強固な意志の持ち主でもある。
昨年の世界選手権を前に、影浦はこう語っていた。
「大学3年生くらいから絶対王者のリネール選手を意識してやっています。自分しか倒せないと思っているので、そこも自分を信じてやっています」
日本代表として華々しい活躍をする選手には、中学、高校時代から全国に名をとどろかせた選手が少なくない。
影浦はそうではなかった。中学でも高校でも、ある程度の成績を残してはいたが、日本一に届いたことはない。
大学に入ると怪我を負い、それが癒えた上級生になる頃から成績は徐々に上がってきてはいた。
ただ、そこまでの過程や成績からすれば、当時からリネールを倒す、という意気込みを持っていたことを大げさと受け取る向きがあっても不思議はないかもしれない。