テニスPRESSBACK NUMBER
ジョコビッチを追い詰めた勇者ティーム。
BIG3時代に生きる「幸せ」とは?
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2020/02/05 19:00
またも初のグランドスラム制覇はならなかった。しかし得意のクレー、全仏なら……と思わせる力が今のティームにはある。
BIG3がいたからタフな選手になった。
フェデラーとナダルがいなければ――彼らの下で約2年もの間、<3番目>の立ち位置から脱却できなったジョコビッチがこれほど完璧なプレーヤーにならなかったのと同様に、彼ら3人の強靭な壁に挑む「時代が違えばチャンピオンになれた」はずの偉大な挑戦者たちが存在するこの時代でなければ、ティームはこれほどタフな選手にならなかった。
パワフルだが安定性に欠けると言われたバックハンドはこれほどまで精度を高めなかったし、こんなに走り続けるスタミナも、こんなにリスキーなショットで攻め続ける勇気も育たなかっただろう。どんなに走っても、どんなに打ち続けてもポイントをくれないジョコビッチやナダルがいたから、ティームはこれほど人の心を動かすテニスプレーヤーになったのだ。
それでもまだ何か足りず、タイトルに届かなかった姿は誰の目にも切ない。全仏オープンでは2度ジョコビッチを破ったのに、いずれの年もそのあとナダルに敗れた。今度はそのナダルを倒したのに、ジョコビッチを超えられなかった。
実は過去、1つのグランドスラムでジョコビッチとナダルの2人を破った選手は、2014年の全豪でのワウリンカしかいない。
「彼らがこのレベルにいる間に」
いつかリベンジすると言った挑戦者の言葉に、親指を立てて応えたジョコビッチはマイクを通してこう伝えた。
「君の将来はまだ長い。グランドスラムのトロフィーを手にする日は必ず来る」
そうはいっても、38歳のフェデラーがなおこのレベルで戦い続け、33歳のナダル、32歳のジョコビッチにいたってはまったくの衰え知らずだ。しかし、そうでなくては困るとばかりにティームは言った。
「絶対に、最初のグランドスラム・タイトルは彼らがこのレベルにいる間に獲りたいんだ」
崇高なチャレンジ精神が胸を打つ。これも偉大な3強時代の賜物だろうか。2020年もドラマチックな年になりそうだ。