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ジョコビッチを追い詰めた勇者ティーム。
BIG3時代に生きる「幸せ」とは?
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2020/02/05 19:00
またも初のグランドスラム制覇はならなかった。しかし得意のクレー、全仏なら……と思わせる力が今のティームにはある。
今回の全豪ではナダルを撃破。
フェデラーやナダルの圧倒的人気の一方で、そろそろ新しいチャンピオン誕生も見てみたいというファンの欲望と期待にも後押しされるように、準々決勝でナダルを7-6(3), 7-6(4), 4-6,7-6(6)と激戦の末に破った。
それまで3セットではナダルから4勝を挙げていたティームも、5セットのグランドスラムでは全仏オープンでの2度の決勝を含め、5戦5敗。1ポイントへの執念が勝敗を分ける凄まじい攻防の中で心身のスタミナを切らさず、ついに勝ちきってみせた。
続いて、グランドスラムでは初めて準決勝に駒を進めてきた22歳のアレクサンダー・ズベレフとの<次代の王者候補対決>を制して決勝へ。待っていたのがジョコビッチだ。
ジョコビッチには過去4勝している。うち2勝がローランギャロスだ。グランドスラムでも勝てない相手でないことは知っている。自信を奮い立たせ、決勝の舞台ではいっそうのオーラを放つジョコビッチにも呑まれず、1セットダウンから2セットを取り返した。
ジョコ戦後のスピーチで口にした感謝。
第4セットも第4ゲームで先にブレークポイントを握った。歴史的な勝利は近づいてきたかのように思われたが、ここをしのいでからのジョコビッチの強さには脱帽するしかない。
「ほんの少しのことが勝敗を分ける。でも、小さなミスを言えばキリがない。何か言えるとしたら、あの第4セット第3ゲームのブレークポイントを取れていたら……ということかな。でも、後悔は少しもない」
ジョコビッチがなぜジョコビッチなのか、ビッグ3がなぜビッグ3になりえたかを思い知らされる試合だった。生まれた時代が少し違えば優勝できたのに、この時代に戦わなければならないことが不幸だったね……そんな慰めや同情を寄せられたプレーヤーは何人もいる。
ティームもその1人だろう。しかし、そんな考えは間違っているのかもしれない。表彰式でのティームのスピーチに、はっとした。
「ノバクとあとの2人、彼らは男子テニスをまったく別のレベルにまで高めてくれた。この時代にプレーできることが誇りだし、幸せに思う。今日は自分の力が足りなかったけど、いつか必ずリベンジしたい。ノバク、おめでとう」