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新しい地図・稲垣吾郎×パラ陸上。
「新国立で世界記録を更新したい」
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/01/27 08:00
鈴木徹(左)、佐藤友祈(中央)、和田伸也。東京パラリンピックで活躍が期待される3人だ。
昔やっていた競技との共通点。
稲垣 アスリートの血が流れてるんですね。
佐藤 そうかもしれません。21歳で脊髄炎で車いす生活になってから、'12年のロンドンパラをテレビで観て、パラリンピックに出ようと決めてパラ陸上を始めました。どちらかというと僕は個人競技の方が好きですね。腕を痛めた時など、個人であれば次の大会を見据えて棄権する選択肢も取りやすいです。チームだとそうはいかない。あと僕は群れるのが苦手なので……。
鈴木 陸上にはそういう人、多いよね(笑)。僕は高校までハンドボールをやっていました。卒業前に交通事故で足を切断して義足になり、ハンドボールを続けようと思ってリハビリをしていたタイミングで走り高跳びに出会いました。そうしたら最初の練習でいきなり日本記録を15cm更新することができて、すぐに「これだ!」と。
稲垣 おお、すごい!
鈴木 ジャンプするという意味ではハンドボールと共通点もありましたしね。和田さんもチームスポーツをやってましたよね?
和田 もともとラグビーをやっていましたが、徐々に視力が落ちて辞めざるを得ませんでした。大学在学中に全盲になってからしばらくは運動から遠ざかっていたのですが、知人の紹介でランニングクラブを知り、走り始めたらとても楽しくて。それで28歳の時に本格的に競技に取り組み始めました。ブラインドの場合はガイドランナーと一緒に走るので、個人よりチームに近いかもしれません。
稲垣 ロープを通じて2人が一体にならないといけない。
和田 身体の動きだけでなく、意識を合わせないと記録は伸びません。あとはガイドランナーからの声掛け。見えない状態で前へ進むためには、前の選手との具体的な距離を教えてもらわないといけない。
鈴木 ブラインドは音が大事ですよね。
和田 声掛けや沿道の応援次第で選手のテンションも変わります。
ゴールまで何も聞こえない。無の境地。
稲垣 佐藤さんはトラック種目ですが、声援は耳に入ってくるものですか?
佐藤 僕の場合、スタートラインに立ってから、レースが終わるまで何も聞こえません。完全に無音の中を走っていて、ゴールした瞬間にパッと歓声が聞こえ出す感覚です。'18年7月に世界記録を出したときもそうでした。
稲垣 いわば無の状態ですね。
佐藤 はい、いわゆる「ゾーン」と近いと思うのですが、とにかく集中力が持続する感じでした。実は、世界記録を出した時は手首を痛めていたんです。その分無駄な力が抜けて、すごくリラックスしてレースに臨めた。まさに稲垣さんがおっしゃった無の境地に近い感覚でしたね。
稲垣 ちょっと風邪を引いている時に、いい演技ができるのと似ているな(笑)。ステージ上の感覚に近いかもしれない。芝居をしているときは身体の中は熱いんだけど、頭の中は冷めてシーンと静かになる。でも、次にその時の状態をなぞろうとすると上手くいかないことってないですか?
佐藤 まさに記録を出した1週間後の大会はそんな感じで、自己ベストからもかなり遅れてしまいました。