プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
獣神サンダー・ライガー涙なしの引退。
「猪木の家」に30年以上住みついた男。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/01/11 11:30
プロレス史に刻み込まれた獣神サンダー・ライガー。現役引退後も、プロレス界の御意見番としてますますの活躍を期待したい!
藤原喜明「健康なうちに引退できて幸せ」
難しい手術も覚悟していたようだが、幸い放射線の治療だけでこの騒ぎは落ち着いて1年後にはリングに復帰できた。「ええ、試合して大丈夫なの?」という疑問もわいたが、以降長らく現役人生が続いたわけで、本当に大したものである。
盲腸を除けば欠場はこの骨折と脳腫瘍だけだった。
この2つがライガーにとっての大きな肉体的な事件だが、ライガーはその後も元気にプロレスラーを続けることができた。引退試合のセコンドに着いた藤原喜明が、「健康なうちに引退できて幸せだ」としみじみと語っていたくらいだ。
「こんな戦いをしていたらいつかどちらか死ぬぞ」と小林邦昭らに言われた佐野との試合があった。そんな、空中戦を含むジュニアヘビー級のとてつもなく危険でスリルに満ちた攻防が、ライガーのステータスを徐々に上げていったのだ。
そうかと思えば、ヘビー級の橋本にも果敢に挑んでいくという、そのたくましさが忘れられない。
「バイオアーマーは脱ぎますけど、マスクはこのまま」
「こんなに丈夫に頑丈に生んでくれた母親に感謝しています」と息子の最後の試合と引退セレモニーを見に東京ドームと大田区総合体育館に広島からやって来てくれた母にお礼の言葉も忘れなかった。
それでも、ライガーが泣くことはなかった。
「母親や家族だけじゃない、ライガーは周りの皆さんに支えられてここまでやってこられたんです」
ライガーは戦いのスーツであるバイオアーマーは脱ぐが、獣神のマスクは脱がない、と決めた。
「バイオアーマーは脱ぎますけど、マスクはこのままです。(永井豪)先生から『ライガー選手、マスクも取るのかい?』って聞かれたので、ボクは今さらマスクを取っても仕様がないし、このままライガーでいたいですと言ったら、『そのままライガーでいてください』とお許しをいただきましたので、これからも獣神サンダー・ライガーとして。ただ、バイオアーマーを着ないので、多少邪心のあるライガーになるかもしれません。気を付けてください」