球道雑記BACK NUMBER
来年もドラフト候補がいる日体大。
辻コーチが築いた投手王国っぷり。
posted2019/10/30 11:30
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Kyodo News
言われてみたら確かにそのとおりだった。
首都大学野球の投手10傑のことである。
調べると、日本体育大学の投手が3人、しかも4季連続で名を連ねていることに気づく。
2018年春は、当時の2枚看板だった松本航(現・埼玉西武、'18年ドラフト1位)と、東妻勇輔(現・千葉ロッテ、'18年ドラフト2位)の他に、当時3年生の吉田大喜(ヤクルト、'19年ドラフト2位)も10傑入りを果たし、その秋には吉田と同学年の北山比呂も名を連ねた。
そして今年は松本と東妻の抜けた穴に吉田、北山の両右腕がすっぽり収まると、空いた3人目のポストには現3年生の森博人が、規定投球回数「21」をクリアして、春・秋ともに10傑入りした。
筆者にこのことを気づかせてくれた日体大・辻孟彦ピッチングコーチは、相好を崩しながらこう説明した。
「昨年は完投能力があるピッチャー(松本と東妻)が2人いたので、頼りたいところもありました。でも自分の中の決まりとして、ここは学生を育成する場であり、より良い就職先に行かせてあげなければいけない場所だとも思っています。その場の『勝利』はもちろんですけど、先々の『育成』も踏まえながら、常々やってきたつもりです」
投手起用に垣間見える“愛情”。
より多くの野球関係者の目に留まれば、その分だけ選手達の注目度は上がり、次のステージへ進むきっかけにもなる。教え子たちの将来を第一に考え、少しでも多く活躍の機会を与え、次の舞台へ送り出す。辻のポリシーと、深い愛情が滲み出ていた。
そんな日体大で今も思い出すのが'17年10月30日から行われた横浜市長杯(関東地区大学野球選手権)の出来事だ。
辻は、この大会の初戦(2回戦)を東妻、準決勝で松本を先発させると、決勝には当時4年生だった西澤大(現・日立製作所)を先発のマウンドへ送った。その年、秋のリーグ戦では、2試合1イニング2/3しか投げていなかった投手である。場内にスタメンが発表されると、スタンドがにわかにざわめいた。
しかし、辻はこの先発起用もニヤリと笑って、こう説明する。
「あれも(横浜市長杯の)初戦を迎える前からピッチャーミーティングで、全員に言っていたことなんです。あのときも優勝から逆算して、みんなの前で『東妻が初戦』『松本が2戦目』『3戦目は西澤ね』と全部告げていました」