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歩くことさえ苦痛だったマリー。
涙の会見、引退危機からの復活V。 

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長谷部良太

長谷部良太Ryota Hasebe

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posted2019/10/23 18:00

歩くことさえ苦痛だったマリー。涙の会見、引退危機からの復活V。<Number Web> photograph by AFLO

優勝を決めた直後、人目もはばからず涙したマリー。「BIG4」と称された男がトップレベルに戻ってくれば、テニス界はさらに盛り上がる。

ワウリンカとの決勝で粘り勝ち。

 とはいえ、この時点では今季中のシングルス優勝を予想した者はほとんどいなかったのではないか。

 ダブルスよりも動きの負荷は大きく、ましてやマリーの生命線はコートカバー力にある。人工股関節でどこまでやれるのか。英メディアによると、執刀した医師もシングルスのテニス選手を復帰させた例はなかったという。マリー自身、「シングルスとダブルスとでは体への負担が大きく異なる」と話したことがある。

 ところが、マリーは驚くべき回復力を示し、8月にシングルスに復帰。勝ち負けを繰り返しながら徐々に本来の動きを取り戻し、10月中旬にベルギーのアントワープで臨んだのがヨーロピアン・オープンだった。

 1、2回戦はストレート勝ちし、準々決勝と準決勝はフルセットの接戦を制した。そして迎えた20日の決勝。相手は四大大会シングルスを3度制した世界ランキング18位のスタン・ワウリンカだった。

 マリーは強打に押され、第1セットを3-6で落してしまう。第2セットも序盤で先にブレークされた。だが、驚異的なフットワークで球を拾いまくり、ミスを誘いながら挽回してセットを奪い返した。最終セットは競った展開の中、ゲームカウント5-4の第10ゲームで15-40から粘りを見せ、見事なブレークで試合を締めた。

 3試合連続のフルセットで、この日の試合時間は2時間27分。粘り強いマリーが帰ってきた。

9カ月前とは全く異なる涙。

 絶望の淵から這い上がり、シングルスでは復帰後初のツアー優勝。ワウリンカと健闘をたたえ合い、主審と握手を交わしたマリーは込み上げる感情を抑えることができなかった。観客からの温かい拍手に包まれながら、表情を崩して泣いた。ベンチに腰を下ろした後も、顔を伏せてむせび泣いた。9カ月ほど前の記者会見で見せた苦しみの涙とは、全く異なる意味を持つ喜びの涙だった。

 シングルスに復帰後、わずか2カ月という超特急の復活劇。本人もここまでの結果は予想していなかったという。

「今大会はただ、再び激しく戦えるようになりたいと思っていただけだった。だから驚いている。股関節も問題ない。もう痛みはないし、それは最高なこと。痛みがないことで再び戦えるようになり、プレーを楽しむこともできている。キャリアの中で最も大きな勝利の一つになった」

【次ページ】 「もうすぐ3人目がやってくるんだ」

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