テニスPRESSBACK NUMBER
歩くことさえ苦痛だったマリー。
涙の会見、引退危機からの復活V。
posted2019/10/23 18:00
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph by
AFLO
今年1月29日。アンディ・マリーがインスタグラムで2枚の写真を公開した。
1枚は利き腕の右腕に点滴を受けながら、作ったような笑顔で病院のベッドに横たわる自身の姿。もう1枚は少し衝撃的なレントゲン写真で、右股関節に長いボルトが付いた人工の器具が入っているのが分かる。
「昨日、ロンドンで股関節の手術を受けました。痛みがなくなってくれることを願っています」
そう綴った投稿には36万もの「いいね!」と、1万8000件近いファンからの励ましのメッセージが寄せられている。
その半月ほど前。全豪オープン開幕前に行われた涙の記者会見がテニス界を驚かせた。マリーは声を詰まらせながら、股関節の痛みが限界に達している状況を説明した。
「やれることは全てやったけど、痛みが強すぎる。この状況でプレーを続けることはできない」
苦しい状況の中で臨んだシングルス1回戦で、4時間を超える激闘の末に敗退。「今日が最後の試合だったとしても、鮮やかな終わり方だ」とメッセージを残しており、この試合限りでの引退を覚悟したファンも多かっただろう。
股関節痛で歩くことすら大きな苦痛。
股関節が痛み始めたのは、世界ランキング1位にいた2017年5月頃だという。
シーズン終盤に向けて痛みがひどくなり、全米オープンから4大会連続で四大大会を欠場した。年明けに手術を受けたが状況は好転せず、その年の全米オープンは2回戦で姿を消し、年末の世界ランキングは240位まで落ちた。日常生活で歩くことさえ、大きな苦痛を感じていたという。
今年の全豪オープンを初戦敗退で終え、失意のどん底にいたマリーに救いの手が差し伸べられた。同じような股関節の悩みを抱えながら、手術により復活したダブルスの名手、ボブ・ブライアンの勧めで受けたのが冒頭の手術だった。
この股関節手術の名医による執刀がマリーの運命を変えることになる。
痛みが嘘のように消え、再びコートに戻る意欲を取り戻した。3月下旬にボールを打つ練習を再開し、5月にはニック・キリオスと打ち合えるまでに回復。6月にはフェリシアーノ・ロペスと組んだダブルスでツアー優勝を果たす。復帰初のタイトルは完全復活へ向けて着実に歩みを進めていることをうかがわせた。
7月にはウィンブルドンの混合ダブルスに、元世界1位のセリーナ・ウィリアムズと出場。スター同士のペアは3回戦で敗れはしたものの、力強くショットを繰り出す姿で「聖地」を大いに沸かせた。