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松島幸太朗はトライ王でも控え目。
南アの厳重警戒を再び破るために。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/15 17:00
スコットランドを切り裂いたステップと俊足を南アフリカ戦でも――松島幸太朗にかかる期待は大きい。
「日本中の皆さんに元気を与える」
「フェーズを重ねるごとにディフェンスがデコボコになる印象が試合中にあったので、抜ける場面はけっこう多くなるかなと思っていました。自分のスピードで真っ直ぐ抜けることができたので、そこは狙いどおりでした。チャンスメイクはできたと思います」
この日の日本は、松島は、特別な思いで試合に臨んでいた。12日から13日にかけて大型の台風が東日本を縦断し、各地が甚大な被害を受けたからである。試合前には黙とうが捧げられた。
「今日は試合をやっていいのかという状況のなかで、自分たちにできる最大のメッセージは、しっかり勝って日本中の皆さんに元気を与えるという……これまでの3試合とはまた違って、みんなのためにもという気持ちはすごく強かったです。勝たなきゃいけない試合だったので、この結果はすごく嬉しいです」
アイルランドに続いてスコットランドをも撃破し、日本はプールA首位で初のベスト8進出を決めた。ジェイミー・ジョセフHCに率いられたチームは、日本ラグビーの歴史を塗り替えたのである。
最多タイのトライ数にも控え目。
プール戦の全4試合にフル出場した松島は、世界が驚き、認め、ついには納得するようになった日本の快進撃を支えてきた。喜びを爆発させてもいいはずだが、試合後の取材エリアでは控え目なのである。彼はいつも、落ち着いた雰囲気をまとう。
「歴史を変えた実感というのは、まだあまりないですね。スコットランドには前回大会でやられているので、そのリベンジが果たせたっていう気持ちはあります。こうやって結果が出ているのは、単純に自分たちがいままでキツい練習をしてきて、絶対に勝てるという自信がみんなに芽生えている。練習でやってきたことを遂行できているから、試合中の感覚が勝てるという意識になっている」
プール戦の4試合で、日本人選手のW杯最多トライ記録を更新した。今大会5トライは、ウェールズのジョシュ・アダムスと並んで最多タイである。個人的にも大会に名前を刻む好機が訪れている。
「終わってみればそういう気持ちも出てくるところはありますけど、試合中はそんな余裕はなかったので。まあでも、そういう立ち位置にいるので、そういったところは狙っていきたいです」