ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
ジダンが抱える「解任」の時限爆弾。
スターの“働き方改革”は成功するか。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byGetty Images
posted2019/08/31 19:00
ホーム開幕戦となった第2節バジャドリー戦を引き分けるなど、未だ見通しが悪いレアル・マドリー。頼みは負傷明けのアザールぐらいか。
バランサー・カゼミーロの重要性。
これだけでも、かなりハードルの高い話だが、片づかない問題はまだある。懸案の攻守のバランスだ。超一流のスターを取りそろえてチームをつくるマドリーの宿命的な課題と言ってもいい。
いつの時代もバランスは前のめり。天秤にかければ、攻撃へ大きく傾くのが常だ。そこでバランサーを失えば、必ずコケる。ガラクティコス(銀河系軍団)時代はあのクロード・マケレレを手放し、崩壊へまっしぐら。CLでデシマ(10回目の優勝)を成し遂げた時代もシャビ・アロンソを売り払って破綻をきたし、カルロ・アンチェロッティ監督のクビが飛んだ。
幸い、ジダンの手元にはカゼミーロがいる。最終ラインの手前で四方に睨みをきかせ、敵の攻撃を吸収し、進路をねじ曲げる地磁気みたいな存在だ。この人を失えば、まずチームは持たない。
いや、カゼミーロがいても攻守のバランスはぎりぎりの状態なのだ。しかも代役がいない。フェデリコ・バルベルデは有望株と評判だが、トップレベルでの働きは未知数だ。保守的な用兵を貫くジダンにとって、信頼に足る存在ではないのだろう。
スターにも働いてもらわないと。
今季はさらに厄介な問題が生じている。ルカ・モドリッチとトニ・クロースの代役まで見当たらないことだ。この夏、成長株のダニ・セバジョスやマルコス・ジョレンテをあっさり放出。マテオ・コバチッチが代役として重宝された一昨季と比べても、バックアップの層が薄い。
現状ではハメス・ロドリゲスとイスコが控えの一番手。開幕戦でモドリッチが一発退場を食らい、出場停止となったバジャドリーとの第2節ではハメスを右インサイドハーフで先発させ、後半途中からはイスコにバトンを託している。
ただ、彼らはモドリッチやクロースほど守れない。実力の拮抗したチームとの戦いでは使いにくいはずだ。そうなると、守備でも汗をかくマルコ・アセンシオとルーカス・バスケスを両翼に配し、8人で防壁を築く4-4-2へのシフト変更を、ジダンは考えるだろう。
もっとも、アセンシオは負傷により長期離脱中の身。当面はオプションとして使えない。ならば、打てる手は1つ。攻撃陣の「働き方改革」だ。スターにも守備の局面でそれなりに働いてもらう。それがなければ、いとも簡単に風穴を開けられ、ドミノ倒しを引き起こしかねない。