欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
川島永嗣、欧州10年目の意味。
「この挑戦を心から楽しむ」
posted2019/08/25 11:30
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Getty Images
舞台をヨーロッパに移してから、丸9年が経過した。
いちいち感慨にふけるタイプではないが、川島永嗣にとっては一応の節目となる“ヨーロッパ10年目”の開幕だ。舞台はリーグアン。フランスに渡って4年目の戦いはすでに幕を開けている。
ストラスブールと2年間の契約延長を発表したのは、7月22日のことだった。その数日前に彼と会い、「来季もフランスで」と聞かされて少なからず驚いた。フランスで3年目の昨季は、第3GKの座からほとんど一歩も動けなかった。リーグ戦の出場はわずか1試合に限られた。しかしコパ・アメリカではしっかりとその存在感を示していたから、日本のクラブが獲得に動いているというニュースを聞いて「いよいよ」と思い込んでいたのである。
「可能性が1%でもあるなら」
川島はその言葉をヨーロッパ10年目を迎える理由とし、「頭おかしいですかね?」と笑った。
36歳。ポジションはたった1つしかないGK。ヨーロッパ、特に5大リーグのマーケットにおいてはいまだに評価が安定しない日本人プレーヤーにして、フランスでは3枠しかない“外国人枠”を勝ち取った男だ。
この10年、川島はピッチの最後尾に立ちながら、最前線で日本のサッカーを引っ張ってきた。そんな男の、今の言葉に耳を傾けてほしい。
成長の「邪魔」となった経歴。
――前回会ったのはちょうど1年前。ワールドカップのベルギー戦から9日後の7月12日でした。
「あれから1年ですね」
――どうでした? この1年。ざっくりした聞き方ですけれど。
「まず、W杯が終わって、次に向かうために気持ちの整理をしなきゃいけないと思っていました。新しいチームを探しながら、休んだり、トレーニングをしたりする中で、やっぱり自分は高いレベルを目指したい、W杯以上のものを経験したいと思った。その気持ちは変わらなかった。それが、あのW杯を通じて出した答えでした」
――以前からそういう話を聞いていたから、昨年夏のストラスブール加入はとても嬉しかった。ちゃんと評価してもらえたんだと。
「まあ、いろんなことがありましたけどね。去年の夏もいろいろと考えたし、考える中で、むしろ邪魔だなと思ったんですよ。自分の経歴みたいなものが。W杯に3回出場したとか、ヨーロッパで何年やってきたとか。そういう過去の経歴が、これからもっと成長したいという自分の思いを邪魔することがあると思って。
たとえば、試合に出られない時に『W杯に3回も出た自分が、所属チームでベンチにも入れない状態になる理由はどこにあるんだろう』とか、そういうことを本気で考えてしまうことがあるんです。でも、はっきり言って、W杯に3回出た過去と、試合に出られない現在の関係性はゼロですよね。今、その瞬間に自分が勝ち取るかどうか。それだけの問題だから」
――そういう考え方をしたくないというのが、もともと持っている川島選手の姿勢ですよね。
「はい。だからそういうつもりじゃなかったけれど、やっぱり、心のどこかで、過去の自分に頼っている自分がいたんじゃないかということに気づいて。だから、本当にそういうものをなしにして前に進めるのか。進めないんだったら、その先はないんだろうなって」
――前に進もうと思ったからストラスブールを選んだ。
「はい」