野球クロスロードBACK NUMBER
本職の二塁に浅村栄斗がFA加入も、
楽天・藤田一也が極める役割とは。
posted2019/07/29 20:55
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kyodo News
楽天の藤田一也は、あまり野球の試合を観ない。それが、右股関節内転筋を痛め戦列を離れていた5月中旬から約1カ月間、出先でもスマートフォンなどで、逐一、チームの試合状況を映像でチェックしていたというのだ。
しかも、グラウンドでプレーするよりも緊張しながら観ていたのだと、藤田は言った。
「なんでだろう? 僕にもわからないんですよ。なんでだと思います?」
藤田からそう質問され、自然とひとつの答えが浮かんだ。
――今年は例年以上に、1試合、1試合、ゲームに入り込めているからではないか?
この回答を導き出した理由がある。
質の高い講釈のよう。
藤田や渡辺直人、嶋基宏と経験豊富な選手たちは試合中のベンチでよく声を出す。檄や鼓舞といったものも当然のことながら多いが、それ以上に戦局やその時のプレーを絶妙に捉えたことを、まるで独りごちるように頻繁に呟くというのだ。
質の高い講釈のようだ――。
そう教えてくれたのは、主将の銀次だった。今年、楽天ベンチの大きな変化のひとつに挙げるほど、彼は重要視している。
「何気なく発しているようで、聞いている側が納得させられるようなことを言ってくれるんです。直人さん、藤田さん、嶋さんは特にそうなんですけど、野球を深く理解している方がそういう声を出してくれることで、ベンチも盛り上がるし、若手も勉強になっている……というか、勉強しないとダメだと思います」
彼らはベンチスタートであっても、まるで自分がグラウンドでプレーしているかの如くワンプレーに目を凝らし、戦況を見守っているのである。