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ホンダとレッドブルが密になった日。
マクラーレン離別に知られざる経緯。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2019/07/21 17:00
レッドブル代表のクリスチャン・ホーナーと勝利を祝う山本雅史。この日のためにコース外でも駆け引きを繰り広げてきた。
私服姿でマクドナルドに集合。
「ヤマモト、シルバーストーンのサーキットの手前にあるマクドナルドを知っているか?」
翌日にイギリスGP開幕を控え、サーキットの中はもちろん、サーキット周辺のレストランにも大勢の関係者が集まっている。ホンダと極秘で話し合いたいマルコは、「マクドナルドなら、レース関係者は来ないだろう」と、会談場所をホテルとサーキットの途中にある街道沿いのマクドナルドに設定した。
時間は朝の8時。もちろん、チームウェアは着用せずに、私服で待ち合わせた。
その話し合いから2カ月後、マクラーレンはホンダとの提携解消を決断。マクラーレン側がホンダとの契約を更新しなかったため、違約金は発生しなかった。世間にはマクラーレンに捨てられたように映っていた当時のホンダだが、じつは水面下で交渉をコントロールしていたのはホンダの方であり、たとえマクラーレンとの提携を解消しても、F1を戦い続け、勝利を目指すことができる自信があったのだ。
13年ぶり勝利を引き寄せたマネージメント。
マクラーレンから提携を解消されたホンダは、その後トロロッソと新たにパートナーシップを組み、'18年シーズンを戦った。さらに今年からレッドブルも加えて二人三脚で新しい道を歩みだす。
F1で勝利を収めるには、レースというコース上の戦いだけでなく、コース外の政治的な駆け引きも重要だと言われている。オーストリアGPでの13年ぶりの優勝は、ホンダの技術力が向上したからだけでなく、それを陰で支えたマネージメント力があったからだということを伝えておきたい。