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ホンダとレッドブルが密になった日。
マクラーレン離別に知られざる経緯。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2019/07/21 17:00
レッドブル代表のクリスチャン・ホーナーと勝利を祝う山本雅史。この日のためにコース外でも駆け引きを繰り広げてきた。
マクラーレンは契約延長を求めていた?
これが本当だとすれば、当時流れていた「マクラーレンがホンダとの提携を解消したがっている」という噂は事実ではなく、むしろマクラーレンはホンダと契約を延長したがっていたことになる。成績不振に陥ったマクラーレンがそれでもホンダとの契約を更新しようとした理由は、その契約内容にあった。
ワークスとして無償でパワーユニットを提供してもらうだけでなく、マクラーレンはドライバーの給与の50%もホンダから資金援助を受けていたといわれている。その額は合計で年間1億ドルだったともいう。
有り体に言えば、マクラーレンは'17年の不振の原因をすべてホンダに押し付け、契約を1年長く延長することで、成績不振による業績悪化を補填しようとしたのである。
マクラーレンがここまで強気な態度に出ることができたわけは、当時のホンダを取り巻く状況にあった。'17年のホンダは春先に、ザウバーと'18年からパワーユニットを供給する覚書を交わしていた。ところが、その直後にザウバーのチーム代表が解任され、ホンダとの覚書は破棄。フェラーリと提携することが発表されていた。
つまり、ホンダが'18年にパワーユニットを供給できる相手はマクラーレンしかなく、マクラーレンと契約延長できなければ、ホンダはF1から撤退せざるを得ない状況だったのだ。
「レッドブルしかなかった」(山本氏)
しかし、ホンダはマクラーレンとは異なる見方をしていた。当時マクラーレンと交渉を行っていた山本は、こう述懐する。
「確かにマクラーレンにはいろんな勉強をさせてもらいましたし、われわれが供給していたパワーユニットに競争力が足りていなかったことも事実です。しかし、F1で勝つためには、パワーユニットの性能も大切ですが、それを搭載するクルマが速くなければ、意味がありません。そのクルマを作る技術と、それを実現させるために優秀な人材を集めるマネージメント力という点で、(これからホンダが組むべき相手は)レッドブルしかなかった」
そこに話を持ちかけてきたのがマルコだった。レッドブルも、チャンピオンを獲得するためにはルノーではなく、ホンダと手を組んだ方が可能性が高いと考えていたからだ。