オリンピックへの道BACK NUMBER
競泳・大本里佳の活躍が目覚しい。
危機感と悔しさを力に「東京こそ」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2019/07/08 08:00
念願の世界選手権の代表入りを果たした大本里佳。今大会で「金」を獲得できれば東京五輪出場が内定する。
リオ五輪落選が覚醒の力に。
ただ、国内のトップというところに突き抜けるまでには至らなかった。だから、これまで世界選手権代表にはなったことがないし、決して狙えない位置にいたわけではなかった2016年のリオデジャネイロ五輪も、代表入りは果たせなかった。
「上位にはいるけど、勝てない選手」
そんな言葉を耳にしたこともある。そういう位置にいる選手だった。ところが今年に入って、変貌を遂げた。
「リオに出られなくて本当に悔しかった。東京こそは、という思いでずっとやってきました」
3年前、届かなかったオリンピックへの悔しさは消えずにくすぶり続けた。
さらに火をくべる役割を果たしたのは、「時間」だった。東京五輪はもう刻一刻と近づいている。このまま世界大会の代表になれずにいれば、またオリンピックを逃す。いつも代表に入りたいという気持ちはあった。そこに切迫感をもたらしたのは、2020年までに残された時間にほかならなかった。
「1本よくても、2本目に頑張れない」練習を見直し、筋力強化にも努めた。練習への取り組み、メニューを変えたことで、「確実に強くなっている実感があります」と思える日々を過ごせるようになった。
すると以前はあった波も消え、大会で結果を残せるようになっていった。
大本のベクトルは上を向いている。
迎えた日本選手権200m個人メドレーでは、「力をためても仕方ないと思ったので、(最初の)バタフライから前に飛び出すくらいの勢いでいこうと思いました」と振り切った泳ぎを見せ、ラスト50mではバテている中でも、優勝した大橋を追い詰めた。
「世界を経験したい」
何よりもオリンピックに出たいという強い思いがそこにあった。レースのあと、大本は言った。
「昨年も、その前の年も悔しい思いをしてきたので、ベストも出てよかったです」
かつて、定評のある予備校の講師が長年の経験から言った言葉を思い起こす。
「どれだけ実績があっても、本番を前にベクトルが上に向いているかどうかが、成功するかどうかの分かれ道なんです」
オリンピック1年前に、確実に上向きとなった大本は、初めての大舞台でどのような泳ぎを見せるか。雌伏の時を経て、輝くための日が来る。