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「生涯通じて伸びしろを埋めていく」
復帰戦で見せた武藤敬司の笑顔。 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byEssei Hara

posted2019/07/03 11:50

「生涯通じて伸びしろを埋めていく」復帰戦で見せた武藤敬司の笑顔。<Number Web> photograph by Essei Hara

昨年3月行われたWRESTLE-1後楽園大会で最後のムーンサルトプレスを舞い、その後長期欠場していた武藤敬司。1年3カ月ぶりに復帰となった。

藤波辰爾「誰が俺のことを見送ってくれる?」

 そして長州には惜別のメッセージ。

「まだ元気なのに引退するのはもったいないなと思った。また復帰するんじゃないの? 今日は引退の10カウントやらなかったじゃん。引退する選手は普通やるでしょ?」

 長州がリングを去り、来年1月には新日本プロレスで一緒に若手時代を過ごした獣神サンダー・ライガーも引退を決めている。

 往年の名選手による『プロレスリング・マスターズ』を主宰している武藤は、Number最新号でのインタビュー時に「マスターズに出られる人間がどんどんいなくなっちゃうよ」と盟友たちの引退を嘆いていた。長州に対する復帰云々というセリフも、照れ隠しのような、武藤なりのさみしさの表現に違いない。

 タッグを組んだ藤波辰爾が「誰が俺のことを見送ってくれる?」と言うと「俺が見送りますよ」とすぐに答えた。

 どれだけ先輩や同世代の選手たちがリングに背を向けて去っていったとしても、武藤のプロレス人生は片道切符。Uターンはない。

長州「毎日猪木会長が頭に浮かんでいた」

 武藤の復帰、長州の引退。この日の興行で気になったことが最後にもうひとつあった。

 それはメーンイベント終了後のバックステージで長州が問わず語りに話し始めた内容である。

「引退の日が決まってから、毎日1回は猪木会長の顔と名前が頭に浮かんでいた。45年間ここまで成長できたのは、リングの中であの方をずっと見てきて、プロレスというものが分かってきて、これは大変だと感じたから。リングの中のアントニオ猪木に近づくのはとてつもなく大変なことなんだなって」

「猪木さんは24時間プロレスのことを考えていた。自分も到底及ばないですけど、プロレスに大事なものっていうのを自分なりに考えながら同じようにやってこられたんじゃないかなと思ってるんですけど、どうなんですかね? やっぱり(プロレスには)答えがないですから」

「最後に悩みましたよ。猪木さんを呼ぼうかって。猪木さんを呼んで雰囲気づくりしてもらおうかって」

 猪木会長、アントニオ猪木、猪木さん。呼び方は口に出すたびに変わった。だが、自らの引き際やキャリアについては一切触れることなく、愛憎相半ばする関係であったはずのアントニオ猪木について、長州はただただストレートに尊敬と感謝の念を口にして去っていった。

【次ページ】 ライガーにも、武藤にも息づく闘魂のDNA。

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