松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
ボッチャ・廣瀬隆喜が父と泣いた夜。
修造、家族の強く温かな絆に触れる。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/07/01 08:00
6球ずつ投げ合い、最後に白いジャックボールに少しでも近いボールを置いた方が勝ち。カーリングのような頭脳戦が繰り広げられる。
「ボールをカーブさせることもできるんですか」
松岡「確かにこうして話していると、どこに障害があるの? って思ってしまうんです。でも、お母さんは大変だったでしょ。ここまで来るのに色んなことがあったと思います」
喜美江さん「いえいえ、あっという間です。ほんとにあっという間(笑)」
廣瀬「ハハハ」
松岡「嬉しいのは、障害を乗り越えるとかよりも、こうやって前向きに生きて、今こうしてひとに幸せを与えていることかもしれませんね。そういう息子さんを見て、どうですか」
喜美江さん「そうですね。嬉しいです。(小声で)誇りに思います」
松岡「ですよね。……なんでゲーム中なのにこんな話をしているんだろう(笑)。すいません、ゲームに戻ります。廣瀬さん、負けませんよ!」
2人はまたスローイングボックスに戻った。松岡さんが投げ、廣瀬さんが投げ返す。ジャックボール(目標球)にボールが当たるたびに、戦況はめまぐるしく変わる。松岡さんも徐々にボッチャのルールに慣れてきた様子だ。
松岡「やっとこのボールを扱う感覚というのがつかめてきました。このボールの柔らかさと重さがちょうど良いんですね。さっきのボールはうまくいったなあ。ジャックに僕のボールがくっついて、廣瀬さんからは見えないんじゃないですか。アナリストの渋谷さん、これは僕がかなり有利ですよね?」
渋谷「見えないですね。特に廣瀬選手はサウスポーだから、ラインが取りづらい。ただ転がすだけだと直接ジャックが狙えないので、赤を弾くか、あるいは載せるか、飛び越える手段を考えないといけません」
松岡「ボールをカーブさせることもできるんですか」
渋谷「できます。けど、日本人はそこまで上手じゃありません」
松岡「改めて聞きますけど、廣瀬さんはなぜ、こう腕を何度も振ってタイミングをとるんですか」
廣瀬「なんだろう。1回で構えて投げるよりは、何度か振った方がリズム感が出るので。じゃあ、投げます」