オリンピックへの道BACK NUMBER
羽生結弦がアイスショーで見せた、
精一杯の感謝と確かな回復の証。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2019/05/28 18:00
24日の幕張公演初日、ショーの大トリに登場した羽生はToshl(左)の生歌に合わせ『マスカレイド』を披露した。
4回転ルッツ挑戦で起きたどよめき。
場内にどよめきをも含んだ歓声を起こした瞬間は、それらだけにとどまらなかった。
フィナーレで、4回転ルッツに挑戦したのだ。1度目のチャレンジで1回転になると、「もう一度」というように人差し指を立てたように見えた。2度目は転倒したものの、果敢な姿勢に対して、再び喝采が起こった。
ファンタジー・オン・アイスは、羽生にとって重要な場となってきた。
日本のファンの前で滑る貴重な機会である。それは毎年、フィナーレのときに見せる感謝の表情からうかがえる。
そして折々の「報告」をするための舞台でもある。
一昨年は、オリンピックイヤーに臨むショートプログラムの発表とお披露目の場となったし、昨年は、怪我からの順調な回復を示す時間だった。
世界選手権から2カ月、確かな回復。
今年もやはり、重要な時となった。
昨シーズン、羽生はグランプリシリーズのロシア大会で負傷。その後、大会欠場を余儀なくされながらも、懸命のリカバリーで今年3月に世界選手権に出場。銀メダルを獲得した。
ショートで出遅れながら渾身のフリーを見せた大会を終えて語ったのは、まだ怪我が癒えていないこと、治療が必要であることだった。そんな中での試合だった。
あれから約2カ月。
4回転トウループやトリプルアクセル、さらに4回転ルッツに挑んだことが、確かな回復基調を示していた。ジャンプのみではない。言葉はなくても、滑りそのものが、現在を雄弁に物語っていた。