スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
上原浩治はひたすらカッコよかった。
低すぎる自己評価を力に変えた男。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2019/05/28 10:30
2013年、ア・リーグチャンピオンシップMVPの表彰式で。手前は息子の一真くん。
上原とイチローの対戦を見たかった。
その姿勢は、日本に戻って来てからも変わらなかった。
最後のインタビューになったのは、今年の2月、場所はキャンプ地の宮崎だった。
「今年はシーズンを通してチームに貢献して、クローザーのポジションを獲得するだけです」
アメリカにいる時と、まったく変わっていなかった。ただし、
「マリナーズが来るじゃないですか。イチローさんとだけは最後に対戦したいですね。もう、なかなかチャンスはないと思うんで」
私はその思いが叶うことを切に願ったが、上原は二軍戦に登板していた。
とても、悲しかった。この対決だけは、見たかったのに。
最高の職場で、最高のピッチング。ありがとう。
最後に。
私が上原に親近感を抱いているのは、本当のビール好きだからだ。
メジャーリーグのシーズン中、家族と離れて孤独な戦いを続けているなか、上原は試合後のリラックスする時間をことのほか大切にしていた。
「ホテルに戻ってからのビール、これは最高です。それに、バスタブにお湯を溜めて、入浴剤を入れてゆっくり浸かる。これも最高です」
いまも、レッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パークで上原がマウンドに上がる時を思い出す。
『サンドストーム』が流れるなか、マウンドに向かって走っていく上原は、ひたすらカッコよかった。
世界でも最高の職場で、上原は最高のピッチングを見せてくれた。
本当に、ありがとう。