スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
上原浩治はひたすらカッコよかった。
低すぎる自己評価を力に変えた男。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2019/05/28 10:30
2013年、ア・リーグチャンピオンシップMVPの表彰式で。手前は息子の一真くん。
「ホンマ、しんどかったですよ」
この後、セントルイス・カーディナルスを下して上原は優勝の瞬間、マウンドに立っていたわけだが、このポストシーズンをこう振り返った。
「タイガースとのシリーズは、ホンマ、しんどかったですよ。あの打線は息つく暇がないんですから。しかも、僕がマウンドに上がったのは1点のビハインド、同点、1点差で逃げ切るとかそんな場面ばっかり。
あそこをしのいでからカーディナルスと対戦したら、打席から感じる『圧』がまったく違いました。カーディナルスのバッターからはそこまでのオーラは感じませんでしたから、その意味では楽でしたね」
ワールドシリーズ優勝の立役者。
翌シーズン、クローザーの地位は約束されたようなものだ。しかし、上原の考えは違った。
「いや、約束なんてされてませんよ。今年も自分でクローザーを勝ち取らないといけませんから、余裕なんてないです」
「コウジは自己評価が低すぎる選手のひとり」
自信がないわけではなかっただろう。
しかし、どこかで「自分はそこまで評価されていない」というコンプレックスめいたものを、上原は“自発的”に持つことが出来た。
数多くの選手に話を聞いてきたが、こうした発想をする選手は、上原以外にはいない。
当時のレッドソックスの監督、ジョン・ファレルにこの話をすると、ファレルは笑いながら、
「コウジは私が出会った選手のなかでも、自己評価が低すぎる選手のひとりなんだよ。でも、それを力に変えているんだろう」
と話してくれた。