スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
上原浩治はひたすらカッコよかった。
低すぎる自己評価を力に変えた男。
posted2019/05/28 10:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
上原がユニフォームを着ていないなんて――。
にわかには信じがたい。いまでも、呆然とする思いが続いている。
巨人、そしてメジャーリーグのボルチモア・オリオールズやボストン・レッドソックスで活躍した上原浩治が引退を発表した。
初めて上原に話を聞いたのは、彼がまだメジャーリーグに渡る前だったが、職場環境や自分の投球について無防備といってもいいほど思ったことを素直に口にする人なので、とても驚いた記憶がある。
そして2009年にメジャーリーグに移籍してからは、私がNHK BS-1の『BSベストスポーツ』のキャスターを務めていたこともあり、スプリングトレーニングの最中や、シーズン半ば、そして終了後に時間を取ってもらい、話を聞くことが出来た。
そこで私が感じたことがある。
彼は意図してなのかどうかは定かではないが、コンプレックスを解消してはそれを持ち続け、最終的にはモチベーションに変換できる稀有な人だった。
そのサイクルをずっと繰り返していたのだ。
「雑草魂」の本質は何だったのか。
上原を表現する言葉として用いられるのは、1999年の流行語大賞にもなった「雑草魂」だ。
彼の履歴は、華やかな野球人生とは一線を画す。東海大仰星高時代は補欠、そして浪人を経て大阪体育大学へ入学する。メジャーリーグへの夢を持っていたが、巨人へ入団する。
ここでコンプレックスがプライドに変換しても良さそうなものだが、彼は居心地の良さをまったく求めていなかった。
2009年に念願のメジャーリーグへ移籍、しかし翌シーズンには先発からブルペンへと配置転換。この職場の異動も彼の闘争心に火をつける。
「ポジションは与えられるものじゃなく、勝ち取るものですから」
アメリカで何度この言葉を聞いたことか。
オリオールズの2年目にクローザーの地位をつかみ取ると評価は急上昇。3年めのシーズン途中にポストシーズン争いをしているテキサス・レンジャーズへと乞われて移籍した。