運命の出会い、そして急速な成長。

　そんな軽い気持ちで陸上を続けた山夲に転機が訪れたのは、大学2年生の頃だ。九州で行われた大会で、現在も師事する橋本裕太コーチに出会ったのだ。

「橋本コーチに会ったのは本当に大きかったです。初めて競技としての指導をしてくれる人でしたし、何より技術的なことよりも、自分の良いところをみつけてすごく褒めて伸ばしてくれた気がします。

　何かを教わったというよりは、良いところを引き出してもらえた。怒られたこととかもあまりなくて、『ダイナミックな走りが魅力的だから、そこを伸ばそう』ということで、声をかけてもらえて」

　最初の1年間は、故障もあり、なかなか芳しい結果は出なかった。ただ、その代わりにウエイトトレーニングにストレッチ、体幹トレーニングといった走りの基礎作りに時間を費やせた。結果的に大学4年生になる頃には、1分55秒台だった高校時代のベスト記録を大幅に飛び越える走りができるようになった。

医学部陸上部はインカレに出られない。

　その頃からはようやく、全国レベルの走りを意識するようになったという。まず目標に掲げたのは国体への出場だった。

「僕は医学部陸上部の所属なので、全日本インカレに出られないんです。だから、目指す目標も、インカレよりもっとレベルの高い国体しかなくて。普通の大学生なら『全日本インカレに出場する』ことが目標なんでしょうけど、高いところを目指していたらそこはいつの間にか超えていた。その辺はポジティブでしたね（笑）。

　僕が高校時代に全国レベルではなかったこともあって、ハードルの高さに気づかずにやれたというのもありますし、橋本コーチが『お前なら絶対やれる！』と言い続けてくれたのもモチベーションが保てました。言い方は悪いですけど、上手に洗脳してくれた感じですね」

　そうして大学4年時の2017年に初の全国大会となる愛媛国体に出場すると、翌2018年の福井国体では前述のように8位入賞を果たす。昨季に記録した現在のベストタイムである1分49秒20は、同年の全日本インカレの優勝記録も上回る。

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