野球善哉BACK NUMBER
「ボールを低めに集める」は古い?
筒香の三振から感じる野球の新潮流。
posted2019/05/21 11:45
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
体調がベストに近づいてきているはずの筒香嘉智のバットが空を斬る。
独特の配球に、球界随一のアーチストは完膚なきまでにやられていた。
5月16日のベイスターズ対ドラゴンズ。
先発左腕では最速を誇るロメロ、国内左腕最速の159キロを投げるロドリゲス、ドラフト1位から2年目を迎えた鈴木博志という3人の速球派投手が筒香を3打数0安打2三振に封じ、見事な継投リレーで勝利をつかんだ。
3人をリードした中日の正捕手・加藤匠馬はこう話す。
「(筒香さんは)低めが強いローボールヒッターで、高めの速い球をヒットにしているシーンをあまり見たことがなかった。全てが意図的だったわけではありませんが、体に近いところの方がボールは速く感じますし、うまく打つのは難しい。そこをうまく使えて良かったかなと思います」
ボールは低く集めるというのが球界の“常識”だが、高めを意識的に使う配球に新しい野球を見た気がした。
日本でもメジャーでも高めの球が増加中。
今季のプロ野球を見渡しても、ストレートを高めに投げ込んでいる投手が目立つ。パ・リーグ防御率2位の1.43をマークするソフトバンクの大竹耕太郎、西武の左腕・榎田大樹などが筆頭だ。
この現象は、決して偶然ではないだろう。メジャーでは日本に先駆けて意図的に高めのボールが配球に組み込まれていて、メジャーに移籍したマリナーズの菊池雄星も、日本時代は投げていなかった高めの強いストレートに活路を見出している。
メジャーで高めのボールが増えている理由は論理的だ。
その1つが、フライボールレボリューションへの対策だ。近年メジャーリーグでは、多くの打者が意図的に角度をつけてボールにコンタクトすることで、安打や長打を量産するようになった。
2017年のワールドチャンピオンに輝いたアストロズが代表例で、この成功以降、アッパー気味にスイングする打者が増え、その対策として高めのストレートが見直されるようになったのである。