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井上尚弥はまるでマイク・タイソン。
長期戦の予想をあざ笑う2R衝撃KO。
posted2019/05/20 11:45

数発の被弾で、ロドリゲスの心は完全に折れていた。井上尚弥の異次元さは加速している。
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
ここまでくるとマイク・タイソンの全盛期のようではないか。
18日(日本時間19日)、英国グラスゴーのSSEハイドロで行われたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝で、WBA正規王者の井上尚弥(大橋)はIBF王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に2回1分19秒TKO勝ち。遠くスコットランドのアリーナでも爆発的な強さを見せた。
今回こそは技術戦になる─―。本コラムでそのようにプレビューを書いたし、井上本人も何度も「技術戦」を口にしていた。
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もっともこれは試合予想というより、「そうなってほしい」という“願望”の意味合いが大きかったのは事実だ。
いちファンとしてそろそろ長いラウンドの試合が見たかったし、井上も経験値を上げる意味で長期戦を望んでいた。そして現実とは期待通りいかないものである。
リスクを冒して勝ちにきたロドリゲス。
ただし、井上がタイソンばりの破壊力を披露したとはいえ、決して試合は大味ではなく、短い時間の中にも「技術戦」は確かにあった。
不利を予想されたロドリゲスは勝ちにきた。豊富なアマチュア経験を持ち、プロで無敗のロドリゲスは脚を使って後半勝負、というプランを遂行できたはずだ。しかしそうはせずに前に出た。リスクを冒さなければ勝てないという決意の表れだった。
ロドリゲスは飛ばした。ゴングと同時にプレッシャーをかけ、カウンターの右ストレート、距離を詰めて左アッパーで井上に迫った。これをステップワークとボディワークでかわした井上はジャブを放つものの、下がりながらのボクシングを強いられてしまう。
青コーナー、井上の父である真吾トレーナーは「いや、不安でしたよ。ロドリゲスが出てきたし、ナオが思ったより硬かったですから」と1ラウンドを振り返る。確かに井上は左フックを思い切り空振りしてバランスを崩すなど、明らかに硬さが見られた。