イチ流に触れてBACK NUMBER
野球人から料理人イチローさんへ。
「包丁を持つことが大きな前進です」
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKyodo News
posted2019/05/21 08:00
マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターに就任したイチローさん。試合途中、ファンの声援に応える。
妻にはゆっくりして欲しいを実践。
さて。本題に入ろう。
イチローさんの現職就任が発表されたのは4月30日(日本時間5月1日)のことだった。その際にスコット・サービス監督が興味深い話をしてくれた。
「彼ほど引退で日々の生活が変わった人はいないのではないか。今までやったことのなかった家の掃除とか、朝食を作ったりしているそうだ」
この監督発言を聞き、3月21日に東京で行われた引退会見でのイチローさんの言葉を思い出した。
「とにかく(僕のために妻は)頑張ってくれました。僕はゆっくりする気はないですけど、妻にはゆっくりして欲しいと思います」
ゆっくりして欲しい……。会見での言葉を本当に実践しているということなのか。イチローさんに早速、聞いてみた。
「それはそうです。今までやれなかったことをね。例えば、包丁を使うこととかって、危ないですからね。(現役の時はケガの)リスクはあるからね。それは、今はねぇ。指は切っちゃいけないけど、出来るじゃないですか。それは随分と(妻も)楽にね、それだけでもね」
照れることなく、笑顔で話すその表情は愛妻家そのもの。イチローさんはさらに続けた。
「わかりやすいのはそれくらいかな。僕は元々掃除は好きだしね。掃除機かけるのが好きだから。(現役の時は)今みたいにはやってなかったけどね。今は好きだからいつもやっています」
一体、朝食に何を作っているのか?
監督の言葉通りだった。
現役時代は24時間を野球のために捧げ、多くの犠牲を払ってきた。だが、今は普通の夫になり、家庭人になった。そして、だからこそ、わかるようになったことがあるとイチローさんは言った。
「手伝うって言ってもね、彼女はやることいっぱいあるからね。ペーパーワークとかいっぱいあって、そう言うものにいつも追われている。僕は今までそう言うものをあまり見る機会がなかったので。こんなに家でやることがあるんだって。そこじゃないですかね」