Number ExBACK NUMBER
武豊も泣いたイチロー引退。
レジェンドが語る「引き際」とは?
posted2019/05/18 12:00
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Tetsuya Ito
武豊が「親父が死んだ時以来」という涙を流したのは、3月21日のことだった。騎手・調教師として長年活躍し、「名人」と呼ばれた父・邦彦氏が亡くなったのは2016年8月だったから、およそ「2年半ぶりの涙」、ということになる。
「普段泣くことなんかないんですけど、自然とグッと来ました」
その夜、武がいたのは、東京ドーム。行われた試合は、シアトル・マリナーズ対オークランド・アスレチックス。そう、あの「イチロー引退試合」を、武はスタンドで生観戦していたのである。
「事前に引退と聞いていたわけではないのですが、このへんで辞めるんじゃないかという予感があり、見ないと絶対に後悔すると思って、早くからチケットを押さえました。試合の途中で『イチロー引退』の速報が流れた時のざわつきは異様でしたし、彼が最後にグラウンドを一周する姿は目に焼きついています。久しぶりにライブで姿を見て、あらためてスーパースターだなと思いました。もう彼のプレーを見られないのかと思うと寂しくて……。イチローというアスリートには尊敬の思いしかありません」
生中継されているイチローに電話。
かたや通算4000本安打、10年連続200安打、首位打者9回。こちらは通算4000勝、GI100勝、JRAリーディング18回――。ともに「日本の顔」として、前人未到の道をひたすら突き進んできた者同士にしかわからない「通じ合うもの」がきっとあるに違いない。そして2人のレジェンドの親交の深さは、武が引退試合翌日のイチローに仕掛けたこんな“イタズラ”からも窺い知れる。
「翌日、彼が空港を歩いているところが生中継で映ってたじゃないですか。今、電話したらどうなるかと思って、ケータイ鳴らしてみたんですよ。やっぱり出ませんでしたね(笑)。電話を切ってメールしたら、飛行機に乗ったあとに返信が来ました」
イチローは「最低50歳まで現役」と公言し、引退会見では次のように述べていた。
「最低50歳までって本当に思っていたし、それは叶わずで、有言不実行な男になってしまったわけです。その表現をしてこなかったらここまでできなかったかもなという思いもあります。だから、言葉にすること、難しいかもしれないけど言葉にして表現するというのは、目標に近づく一つの方法ではないかなと思います」