フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
グレイシー・ゴールドが回復中。
摂食障害からの復帰を巡る道。
posted2019/05/19 11:30
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Akiko Tamura
5月2日、マンハッタンのチェルシーピアにあるスカイリンクで、アイスシアターオブニューヨーク(ITNY)の春の公演が開催。その会場で、元全米女王のグレイシー・ゴールドが「2019年ウィル・シアーズ・アワード」を授与された。
ウィル・シアーズは20歳で急死したアメリカ出身の元ペア選手で、彼の名を冠したこの賞は特別な情熱や勇気を示したスケーターに与えられてきたもの。今年は摂食障害から回復して競技復帰を目指しているゴールドに与えられた。
「とても光栄に思っています。自分の体験を告白したときは、他の人たちのインスピレーションになろうなんて思ってもいませんでした。ただ私はしばらく地球の隅っこからこぼれ落ちて姿を消していて、突然(リハビリ後コーチをはじめた)アリゾナに浮上した。その経緯を説明したいと思ってSNSに書き始めたんです」
授賞式前に、筆者の取材に応じたゴールド。3年ぶりに会った彼女は、以前よりもふっくらしていたものの、表情が明るく落ち着いていた。特に摂食障害についてなど、どこまで踏み込んで良いものか迷っていた筆者に、驚くほど積極的に、そして率直に自分の気持ちを語ってくれた。
「プレッシャーは自分が与えたものだった」
「プレッシャーの80%は、自分自身が与えたものでした」とゴールド。彼女は2012年世界ジュニア選手権で銀メダルを手にし、近年のアメリカ女子でもっとも才能ある若手と注目された。
2014年ソチオリンピックで4位と表彰台に迫り、翌シーズンのNHK杯で優勝。全米タイトルも2度取ったが、世界選手権では2015年、2016年と2年連続4位に終わる。特に2016年ボストン世界選手権で、SPで1位に立つもフリーで失敗して表彰台を逃したことで、鬱状態に陥ったという。
「天は私に才能と身体能力、真面目に練習する精神力、スケートをやっていける経済力のある家庭環境と理解ある両親など、すべての条件を与えてくれました。同じ条件をもらった他の人だったら、これをもっと有効に使えたと思う。これを生かすことのできなかった自分は、天の与えてくれた期待を裏切ったのだ、と自責の念にかられたのです」
今思い返すと、次のシーズンは休みを取るべきだった、とゴールド。だが翌シーズンに向けてがむしゃらに練習を続け、5位に終わった2016年スケートアメリカで「フィギュアスケートは細身の身体が要求されるスポーツ。今の私にはそれがないんです」と口にした。居合わせた記者たちはゴールドの言葉に驚き「あなたはとてもきれいよ」と口々に慰めた。
実際当時のゴールドはまだまだ現役のスケーターの体型だったが、その言葉は彼女の心には届かなかったらしい。