フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
グレイシー・ゴールドが回復中。
摂食障害からの復帰を巡る道。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura
posted2019/05/19 11:30
ITNYの公演で顔を見せたグレイシー・ゴールド。左はゲスト出演したミーシャ・ジー。
「現役に戻るのは今しかない」
現在はフィラデルフィア郊外に在住し、フランス出身のヴァンサン・レステンクールをコーチとしてトレーニングをする傍ら、彼女自身も、子供や大人相手にスケートの指導をしている。
「私は自分でこれで最後にする、と宣言することができませんでした。あるときまでハイレベルの競技スケーターで、気がついたら全てが消滅してゼロになっていた。コーチをするようになってから多くの人が、『現役に戻ればいいのに』と言ってくれた。コーチをすること、学校に戻ることはいつでもできる。でも選手に戻るチャンスは今しか残されていないと思って決意したんです」
現在は2回転ジャンプを跳べるようになった。ここから先に行くために、基礎体力の回復と並行してトレーニングをしていかなくてはならない。
「普通の人だったら少しずつ着実に戻していくでしょう。でも私は性格的に、全部やるかゼロか、というタイプなんです。白黒のどちらかでないといやで、グレーゾーンにはいることが苦手なんです」
「目標は、試合に出場すること」
小さな地方大会から始めていく予定なのか。
「そうせざるを得ないですね。今の私はもうシードはないので。ただ私の中では、アイスショー、小さな地方大会、オリンピックなど関係なく、どれも同じくらい緊張してしまうんです」と苦笑する。
ゴールドを単独取材したことはこれまで何度もあったが、語彙の豊富さ、表現の豊かさは以前の彼女に比べてまるで別人のようである。彼女がこの体験を通して、苦しみながらも成長してきたために違いない。
現在の女子のレベルを見ると、ゴールドが世界のトップに返り咲くことは現実的にいって厳しいかもしれない。だが彼女の中では、順位が問題なのではない。病気を乗り越え、自分がいたい場所に戻るということそのものが、勝利なのである。
「試合に戻りたい。それが目標なんです」
現在23歳のゴールドが、リンクの中央に立つ日を心待ちにしている。