ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
Jどころかサッカー史に残る最終節。
03年マリノス完全Vは奇跡の連鎖。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/10 10:00
久保竜彦の終了間際のゴールによる逆転優勝。世界広しと言えどもここまで劇的な結末はそうそうないだろう。
磐田の決定機も動じないマリノス。
その直後、上野良治との交代でベンチに下がった遠藤彰弘はどういうわけか、テレビを見ながら「俺たちが勝つ」と思っていたという。10人になってから、その遠藤が右翼に回ったことで、中央に広がったスペースをたったひとりで切り盛りしたボランチの那須大亮も明るい予感を抱いていた。
「これは何かある。いや、必ずある」
81分、ゴール前で完全にフリーとなっていたグラウのシュートがポストを叩いた直後のことだ。磐田が快足の川口信男を前線に投入して攻めの手を強めてもなお、横浜FMは前のめりの姿勢を崩さない。
そして、1-1のスコアが動かぬまま時計の針が進み、ついにアディショナルタイムへ突入。結局、磐田の優勝か――と誰もが思いはじめたその時、人々は目を疑うような光景に出くわすことになる。
昇り竜、久保竜彦のヘディング弾。
昇り竜が、現れた。
最後方の下川が前線に放り込み、松田が足を突き出すと、ボールは最終ラインの裏へ。磐田のGKとバックスが落下地点に近づいた瞬間、疾風のような勢いで追い抜いた久保がジャンプ一番。大きく弾んだボールに頭をねじ込むと、下から上へと突き上げた。まるで竜が天へと昇るかのような光景だった。
宙を舞ったボールは大きな弧を描き、無人のゴールに吸い込まれていく。久保が左手を何度も突き上げながら疾走する先に歓喜の輪が広がると、両手で頭を抱えた服部が信じられないといった表情を浮かべる。
磐田ベンチは急きょ負傷を抱える重鎮の中山雅史を投入したものの、もはや何かを起こす時間も余力も残っていなかった。
そして、2-1のままタイムアップ。ドラゴンこと久保の放った乾坤一擲のヘッドが、最後の最後にドラマの結末を書き替えることになった。
それでもまだ、スタジアムは騒然としていた。横浜国際総合競技場(現日産スタジアム)の大型画面に呆然と立ちつくす鹿島の選手たちの姿が映し出されたのは、試合終了の笛から4分後のことだった。