野球のぼせもんBACK NUMBER
イチローに人生を当てはめた男。
ホークス上林誠知が貫く51番への愛。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byGetty Images
posted2019/03/26 17:30
上林誠知は3月の侍ジャパンでも背番号「51」を背負い、1試合目は1番バッター、2試合目は主軸の5番で先発出場した。
「あの年齢で……本当にすごい」
引退の事実をどのように受け止めたのか。翌日、早出特打を終えたところを呼び止めた。
「いつも、いい意味でも期待を裏切ってきたイチローさん。50歳までやると言っていたし、東京で終わりなんじゃという説が流れていても、どうせウソだろうと思っていた。あの人の決断について僕は何も言えない。ただ、あの年齢まであの体の状態を保ってきたのは本当にすごいことだと改めて思いました」
3月29日、プロ野球が開幕する。昨年シーズン143試合にフル出場した上林は今季も右翼手のレギュラーに最も近い位置にいる。
しかし、オープン戦は44打数5安打、打率1割1分4厘、長打0という散々な結果に終わった。最終戦となった24日の広島戦(マツダ)はスタメンに名を連ねるも背中の張りを訴えて、2回の第1打席で代打を送られてベンチに退いた。
首脳陣がどんなに不振でも「試合の中で復調を」との思いで起用し続けてくれていたのは分かっていただけに、「申し訳ないし、情けない」と悔いの言葉しか出てこなかった。
「過去には戻りたくないんです」
不振の要因は様々考えられる。キャンプ中に右臀部に張りが出て一時別メニュー調整を強いられたが、復帰後も「状態は完璧じゃない」と回復しないままプレーを続けていた。そして、バッティングに関しては昨年から技術的に手を加えて今季に臨んでいる。ならば、元に戻すのも手段の1つだが、上林は胸の内を明かす。
「過去には戻りたくないんです。イチローさんも引退会見で言っていました」
イチローの会見の以下の部分を指していた。
<一気に高みに行こうとすると今の自分の状態とギャップがありすぎてそれは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思う。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でもそれは正解とは限らないですよね。間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど、でもそうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えないというか、そんな気がしている>