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F1開幕戦前日に急逝した審判部長。
ベッテル、ボッタスらが捧げた感謝。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2019/03/24 10:00
開幕戦の地メルボルンでベッテル(右)と話し合うホワイティング。まさかこの翌日に急逝するとは誰も思ってもいなかった……。
ベッテルの暴言騒動と信頼関係。
中でも最も印象深かったものが、'16年メキシコGPのセバスチャン・ベッテルからの暴言だろう。レース中に自分が不利を受けたにもかかわらず、ホワイティングが相手に罰則を与えなかったとして、無線で怒りを爆発させたのだ。
「いいか、これがチャーリーへのメッセージだ。F*** off! マジで! F*** off!」
F*** offは当然放送禁止用語で、「消え失せろ」というような侮辱的な意味を持つ。欧米では公の場で使う言葉ではない。なぜ、ベッテルはそんな暴言を吐いたのか。ホワイティングのことを憎かったわけではない。ベッテルはグランプリ開幕前日のコースの下見を時折ホワイティングと一緒に歩いて行なっていたほど、密接な関係を築いていたのだ。
むしろそのホワイティングへ対する信頼が、「なぜ、自分の気持ちをわかってくれないのか?」という甘えに変わり、ベッテルの感情をコントロール不能にしたのではないか。
ベッテルは、レース直後にホワイティングへ暴言を謝罪。FIAもホワイティングの顔を立てたのか、例外的に懲戒処分を科さなかった。
ホワイティングとベッテルの関係はそのような事件があった後も、変わらなかった。むしろ、絆は強くなっていった。今年の開幕戦の地、メルボルンでもホワイティングとともにコースの下見を行なうベッテルの姿があった。
誰もが訃報に動揺していた。
突然の訃報にベッテルは動揺していた。
「僕は昨日、コースの下見を途中まで一緒に歩いて行なって、彼といろいろ話をしたばかりだった」
今年F1に復帰したロバート・クビサも、ホワイティングに質問したいことがあったが、2人が親しそうに話す姿を見てやめたほどだった。
「ちょっとチャーリーに話があったけど、セバスチャンと一緒に歩いていたので彼らの邪魔をしないようにやめたんだ。金曜日のドライバーズミーティングでまた会えるからね」