クライマーズ・アングルBACK NUMBER
視覚に頼らず壁を登るクライマー。
49歳の日本王者が越えた2つの挫折。
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byKenichi Moriyama
posted2019/03/21 11:00
パラクライマーの蓑和田一洋、49歳。日本選手権では3度優勝している。
第3の人生と、クライミングの両立。
「目が見えなくなると大変でしょうってよく言われます。確かに不便なことはあるんですが、慣れてしまいました。治らないものはしかたがないので、とくに気に病むことはないですね」
緑内障を発症して7年。そこにドラマチックなコメントを期待するこちらの下心を裏切るように、蓑和田はあっけらかんとそう語る。そしてすでに、第3の人生に向けて歩き始めている。
もともと身体のコンディショニングに関心があったため、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧の資格をとり、鍼灸あんま師として仕事を始めたのだ。並行して筑波大学で治療や研究にも携わっている。
鍼灸あんま師としての蓑和田の特徴は、クライミングや登山による障害に詳しいこと。大会出場前には、自分の体に鍼治療を施してコンディショニングを行なったりもしている。そして彼のウェブサイトをのぞくと、「フランス語にも対応」とある。かつてフランスのクライミングカルチャーに憧れ、現地に通い詰めた蓑和田らしい売り文句だ。
パラクライマーとしての蓑和田の現在の目標は、今年8月に東京・八王子で開催される世界選手権。リードやボルダリングなど一般スポーツクライミング競技と合わせて開催されるこの大会。蓑和田が狙うのは、もちろん優勝である。