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昌子源がフランスで大切にする事。
「ここは鹿島ではないと割り切る」 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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photograph byNoriko Terano

posted2019/03/04 12:30

昌子源がフランスで大切にする事。「ここは鹿島ではないと割り切る」<Number Web> photograph by Noriko Terano

リヨン戦の敗北は、昌子源にとって衝撃的な体験だった。それでも彼は、望んでこの場所にやってきたのだ。

鹿島の選手は負けた後は笑えない。

 ポゼッション率は61パーセント対39パーセント。そして、シュート数は20本対5本。枠内シュートは10本対2本。データだけを見ても、その差は歴然だ。失点するたびに下を向き、どんどん気持ちが萎えている仲間に対して、昌子は英語やフランス語、知る限りの言葉を使って大きなジェスチャーで鼓舞したが、ピッチ上の空気は変わらなかった。

 大敗したにも関わらず、笑顔を浮かべながら日本人記者に愛想を振りまくチームメイト、 ロッカールームで選手たちを「よくやった」と励ます幹部。昌子はそんなチームの空気にも違和感を抱いているように見えた。

 鹿島アントラーズなら、こんな試合のあとは笑ってはいけない。笑えない。個対個でのプレーが主体で、カバーリングの意識も薄い。強敵を相手にしても組織力でどうにか耐えるという、鹿島や日本代表でやっていたサッカーとは全く違う。自分が立つ場所を改めて再確認するような、そんな試合だったかもしれない。

フィジカルで劣る昌子を獲得した理由。

 その試合から4日前の2月27日、昌子源はトゥールーズの練習場にいた。まだ2月だというのに、気温は20度を超えている。

 約2時間の練習では、ハーフコートを使ったミニゲームに時間を割いていた。その守備陣の中央に立つ昌子は、何本もロングフィードで攻撃を演出していた。そして、プレーが止まるたびに厳しい表情を浮かべる。なにか思案を巡らせているようだ。そんな昌子に対して、チームメイトたちは、すでに信頼感や尊敬の念を抱いているように見えた。

――移籍直後から先発起用が続いていますが、今、ご自身はどういう状態でしょうか?

「やはり、こちらは間合いが日本とは全然違う。懐も深いし、なかなかボールがとれない。そのうえ、冬だったこともあって、柔らかいグラウンドにてこずりました。ずるっとすべってしまうんですよ。そういういろんなことがあって、やっぱり不安にもなった。

 だから、監督のところへ行ったんです。『どうしたら、適応できるのか』って。普通監督と面談する選手って、起用法とかで文句をいうことが多いらしくて、監督は嬉しそうに驚いてました。『お前をとった最大の理由はパスが出せるから、後ろからのビルドアップができるからだ。1対1で吹っ飛ばされるくらい、こっちのフィジカルは強い。日本では小さくはなかったかもしれないけど、ここでは小さいし、スピードもここでは平均的だ。

 まずはそれに慣れろ、そのうえで、今持っている技術を活かせれば、おまえはフランスでトップのクラブにも行ける』って言ってもらえた」

――欧州のなかでもフランスは、強烈なフィジカルを持った選手が多いですよね。フィジカル面以外に、日本との違いはありますか?

「無名の選手でもすごいスピードだったりするから、驚くことはあります。こっちの選手は、チャレンジアンドカバーの意識がない。チャレンジだけです。それでチャレンジに失敗したら独走される。

 それで俺がカバーへ行ったら最初すごい怒られたんです。自分のマークを外すなと。でも、カバーを成功させられる自信があるから行っているので。成功すると、周りはびっくりして驚いている。基本的にハーフウェーラインでボールを取られても、そこでアタックしに行くという選択肢がなくて、ペナルティエリアまで下がる守り方なんです。だから、前で取れそうやなと思っても、なかなかそれができない」

【次ページ】 欧州が日本の真上にあるわけではない。

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