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昌子源がフランスで大切にする事。
「ここは鹿島ではないと割り切る」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNoriko Terano
posted2019/03/04 12:30
リヨン戦の敗北は、昌子源にとって衝撃的な体験だった。それでも彼は、望んでこの場所にやってきたのだ。
鹿島で培った「サッカーは勝ってなんぼ」。
――チームは今15位で、残留争いには巻き込まれていませんが難しい状況ですね。
「リーグ戦は6試合勝てていない。こんな状況は鹿島では経験したことがなかった。点が入らないし、1点とられたら、周りがすごい沈むんですよ。そういうところは負けず嫌いじゃないのかって。
だから、高いプロ意識を持った選手は少ないのかなぁと思います、正直なところ。練習もいつもギリギリに来るし、ストレッチも何もしない。僕がストレッチをしていると、驚いてますからね。『だから源は怪我をしないんだな』って。そういう問題じゃないのに。
でも彼らも怪我しないから、それでいいんだって感じなんでしょうね。もちろん中にはプレミアでプレーしていた選手もいますし、ボランチのヤニック・カユザックは手本になりますね。彼は大きくもないし、横幅もスピードもないけど、球際はびびらずに行く。ああいうところを僕が身につければと監督も言っているんだと思います。でもまあ、メンタル的にはしんどいなぁと感じることもあります」
――やっぱり鹿島と比べてしまう?
「そうですね。ホームシック感はないんです。ただ、鹿島の試合を見たら、帰りたいっていうか、勝ちたい、優勝したいという気持ちを思い出す。サッカーは勝ってなんぼやし、優勝経験したら、優勝してなんぼってなるし。でも鹿島とは180度違うチーム、残留争いするチームへ来たから。ここは鹿島ではないと割り切っている。
幸い試合も週1なので、そういうことすら新鮮だし、毎日驚きもたくさんある。そういうのが楽しいですね。ただ、自分としてはこのクラブの環境、雰囲気に慣れたらダメだという意識を持っています。常に新しいことに挑戦したいと考えている。プレーもそうですし、ウェイトトレーニングをやったり、進化するための何かを探して、チャレンジしていかなくちゃいけないと」
柳沢や小笠原は、海外移籍を応援していた。
――海外移籍、ヨーロッパ、フランス……きっと来る前はキラキラしたイメージだったのではないですか? でもそうじゃない。
「ですね。来てみたら、キラキラ具合とか、夢みたいなのは、正直日本のほうがあると思う。(香川)真司くんみたいに、ドルトムントとか、マンチェスター・ユナイテッドってなったら、話は別ですけど。
チームメイトに言われるんですよ。『日本でいくつタイトル持っていたの?』『6つは持っていたね』と答えると、『なんで、トゥールーズに来たの? もしかして、フランスでは無名だけど、日本では町歩けない選手じゃないのか』って(笑)。イニエスタが日本へ来たこともあって、日本の知名度はすごい。日本でプレーしたいっていう選手は多いですね」
――勝てないと勝利給も入ってこないし(笑)。
「確かに(笑)。でもここから先、自分がどこへ行くのかによっては、今は見えない世界、風景を目にすることもできるわけだから。それを味わいたくてここに来たという気持ちはブレてはいないから。
たとえ、誰もが認める大きなクラブへの移籍ができなくても、海外へ移籍することに『失敗』はないと思うんです。日本でしか成長できないことと、ヨーロッパでしか成長できないことがあって、その両方を経験する、ヨーロッパを知るだけでも、選手としてはプラスになると思っています。
こっちへ来る前に、ヤナ(柳沢敦)さんや(小笠原)満男さんと話したんですけど、『試合に出ている出ていないに関係なく、『海外へ行っただけで成功だと俺は思う』って。1カ月ちょっとですけど、日本と欧州との違いを色々気づくことができた。まだまだ、剛さんのいう引き出しを増やすというところまではいかないけど、それでも学びや気づきもあるんですよね。だから、失敗はないと確信しています」