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<WBC2017 インサイドレポート>
かくしてブルペンはひとつになった。 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2017/04/01 17:00

<WBC2017 インサイドレポート>かくしてブルペンはひとつになった。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

牧田和久は登板数5で1勝2S。6回を投げ6奪三振、防御率は3.00。

抑えは牧田か、秋吉か、それとも則本か……。幾度も話題に上った、終盤への不安。守護神が不在の中、投手をやりくりする“権藤イズム”は現場に混乱を招いていた。当事者は何を思い、いかにその起用法に順応し、マウンドに向かっていたのか。

「そんなの、決められるわけないだろ」

「それじゃ、ピッチャーが戸惑います」

「またお前は……細かいことを言うな」

 決してケンカをしているわけではない。しかし、ピッチングコーチの権藤博とブルペンコーチの村田善則の間では、こんな激しい議論が日常化していた。ブルペンにいた何人かのピッチャーは、またやってるよ、善さん、頑張れと、心の中で呟いていた。どのピッチャーも、それぞれの役割について、何も決めない、何も言われないという“権藤イズム”に戸惑い、ふざけんな、いつなんだよ、という不満を溜めていたからだった。村田コーチはこう言っていた。

「ピッチャーからも聞かれるわけですよ。準備したいから、どこで投げる可能性があるのかを早く知りたいって……そりゃ、そうですよね。でも権藤さんは試合の動きによってピッチャーをセレクトしていくんです。試合は生きものなので、この打線の流れならこのピッチャーのほうが勢いを止められるとか、そういう中で決めていく。どこで行くかわからないから、ムダな準備をさせるな、早くから準備させるなと……でも、そういうわけにはいきませんからね。権藤さんの考えてることを感じながら、次はこうなるって考えて、僕の判断で準備させました。そうすると権藤さんには、またお前はって怒られるんですけどね(笑)」

 権藤コーチの経験則から導き出される継投は、確かに味わい深く、村田コーチもその凄味と魅力は理解していた。しかしそこに至るまでの現場の混乱は、想像を絶していた。たとえば、こうだ。権藤コーチが言う。

 よし、岡田で行く。

 えっ、松井が準備してますが。

 いや、ここは岡田だ。

 権藤コーチは、ベンチから徒歩10秒のブルペンにしょっちゅう現れて、ときにはピッチャーに直接、耳打ちをした。松井裕樹ではなく、岡田俊哉が急ぎ準備して、マウンドへと向かう。岡田はドラゴンズ時代の権藤コーチを知っていたため、13人の中で1人だけ権藤イズムを熟知しており、今さら戸惑うこともなかった。それでも、球数制限がある短期決戦の国際大会という環境が、いつにも増して権藤イズムの特殊性を加速させていた。つまりは権藤コーチが推す“準備が足りない岡田”と村田コーチが推す“準備万端の松井”はどちらがいいのかという議論になるのだが、修羅場をくぐってきた権藤コーチにしか見えない未来予想図は岡田が抑える可能性を示唆しているとなれば、そこに正解はなくなってしまう。

この記事は雑誌『Number』の掲載記事です。
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