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「普通の人でいたかったです」
須田幸太はベイスターズに殉じた。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKyodo News
posted2019/02/08 17:30
プロ人生最初で最後のセーブを挙げた試合での須田幸太。ベイスターズで過ごした日々に、悔いは無い。
須田はベイスターズに殉じた――。
須田が「普通の人でいたかった」と言ったのは、主にファンとの関係性のことを指していた。プロ野球選手は常に特別扱いされる。ファンと同じ目線で、友だちのように交流することができないことに息苦しさを感じていたのだという。自分なんてただの「普通の人」なのに、という思いがあった。
身長は176cmで、筆者とほとんど変わらない。街の雑踏に、どこかの職場に、すんなり馴染んでしまうであろう風貌。いま目の前にいる須田幸太は、たしかに「普通の人」だ。
ただ、彼をプロ野球選手たらしめてきたものも視界には映り込んでいる。練習着のズボンの内に張り詰めた、まさしく丸太のような両の太もも。この太ももの力で土を蹴り、めいっぱい踏み込んだからこそ、「普通の人」は普通でないボールを投げられた。彼がプロ野球選手として生き続けようと思えば、それは絶対に守られなければならないものだった。
だが須田は、2016年の秋、最初で最後かもしれなかったCSを戦った秋、太ももの一本を犠牲にした。
カッコつけた言い方をすれば、プロ野球選手・須田幸太はベイスターズに殉じた――。
登場曲は、嵐の『GUTS!』。
胸に苦しさを覚えたのは、そんな事の成り行きがあらためて脳裏を駆け巡ったからだ。鉛を飲み込んだような重さを腹に感じずにはいられなかった。
沈みかけた筆者の気持ちを見透かしたかのように、須田は明るく言った。
「でも、ベイスターズひと筋でよかったなって思ってます」
現役時代、登場曲に嵐の『GUTS!』を使っていた。明るい曲調のイントロが流れ始めただけで、横浜スタジアムは沸いた。あの時間、ともに戦う仲間として、立場の違いを越えて自分とファンが1つになれた気がした。
「ぼくががんばったからといって、ぼくが盛り上げてくださいと言ったからといって、盛り上がるわけじゃないんです。ファンの方がいたからこそ、ああやって自然と球場が盛り上がるようになった。だからファンの方たちには本当に感謝しています。
いまは、踏み込みを取り戻す練習をずっとやっています。できるところまで野球をやるつもり。嵐が2年がんばるので、ぼくもあと2年は必ずがんばりますよ」