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「普通の人でいたかったです」
須田幸太はベイスターズに殉じた。
 

text by

日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

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photograph byKyodo News

posted2019/02/08 17:30

「普通の人でいたかったです」須田幸太はベイスターズに殉じた。<Number Web> photograph by Kyodo News

プロ人生最初で最後のセーブを挙げた試合での須田幸太。ベイスターズで過ごした日々に、悔いは無い。

大ピンチでの好リリーフ。

 第3戦は3-0とリードして終盤に入る。ブルペンが忙しくなるのは8回だ。

 三上朋也が2本のヒットを浴び、続いて送り込まれた田中健二朗は丸佳浩に粘られたすえ四球を与えた。2アウト満塁、打席には4番の新井貴浩。一発が出ればいっきに逆転というシチュエーションで、須田の出番はめぐってきた。

「『マジか』って感じでした(笑)。三上だったら、健二朗ならと思っていたらあれよあれよと……。フォアボール出したら行くぞとは言われていたのでそこでスイッチは入った。マウンドに立ったら気持ち入ってたんで、ケガも忘れて」

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 真っ赤に染まったマツダスタジアムで須田は無心で右腕を振り、新井をライトファウルフライに打ち取る。左手薬指の骨折をおして出場していた梶谷隆幸がフェンス際に滑り込み、倒れ込みながら捕球し、それを見届けた須田がガッツポーズを繰り出した場面は、あのCSのハイライトだ。

 次戦で敗れベイスターズの2016年のシーズンは幕を閉じたが、須田は故障を乗り越え務めを果たせたことに安堵していた。2カ月のオフの間に、左脚の痛みも次第に薄れた。元通りの体で、去年以上の活躍を。新たなシーズンに向かう気持ちは軽かった。

自分を見失ってしまった2017年。

 ところが2017年のキャンプインを迎え、須田は一転して不安に苛まれる。何をやっても自分の納得いく球が投げられなかったのだ。

 調子が上がる気配はなかったが、前年の実績から不可欠な戦力と見なされていた須田は開幕一軍メンバーに名を連ねた。そして開幕カードのスワローズ3連戦で、厳しい現実を突きつけられることになる。

 7回のマウンドに立った開幕戦は、1アウト満塁のピンチを招いて降板。すべての走者が生還したため、防御率の欄にはいきなり「81.00」の数字が刻まれた。

 3戦目では同点の延長10回裏、1アウト満塁の場面を託された。その初球は鵜久森淳志にレフトスタンドまで運ばれた。サヨナラ満塁ホームランを浴びたショックに、神宮球場のロッカーで涙をこらえきれなかった。試合後、防御率は「108.00」にまで膨らんだ。

 4月28日のカープ戦で先発のウィーランドがつくったノーアウト満塁のピンチを無失点で切り抜けるなど、一時は持ち直したかに見えた。だが1年前のボールが甦ることはなく、5月20日、一軍選手登録を抹消された。

「持ち直しては……ないですね。そのまま(調子が上向かないまま)行って、そのまま抹消された感じです。2017年に関しては、自分の投球ができたなっていう試合は1試合もないです」

 須田には、なぜ自分の球が投げられなくなったのかがわからなかった。試行錯誤を重ねても、これだと思えるものに出合えなかった。霧の中をさまよい歩くような状況は、翌2018年も続いた。

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