松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER

修造応援! パラカヌー瀬立モニカが
描く、どこまでも前向きな未来。
 

text by

松岡修造

松岡修造Shuzo Matsuoka

PROFILE

photograph byYuki Suenaga

posted2019/02/05 07:00

修造応援! パラカヌー瀬立モニカが描く、どこまでも前向きな未来。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

前列の左から、瀬立モニカさん、西明美コーチ。背後は母親の瀬立キヌ子さん。

「笑顔は副作用のない薬だよ」

松岡「モニカさんにはまだ無限の可能性があるから、きっとなれると思うし、2020年が終わったときにまた違う選択肢が見えてくるかもしれない。お母さんもそういう言葉を聞いて、喜んでいるんじゃないかな。ここまで来るのに、一番サポートしてくれたのは間違いなくお母さんですよね」

瀬立「はい。ケガをして入院したときに、お母さんにいわれた言葉があって。『笑顔は副作用のない薬だよ』って。その言葉に何度も励まされてきました」

松岡「お母さん、これは本当に良い言葉だと思います。どこからこんな言葉が?」

キヌ子さん「私、看護師なんですね。いつも患者さんに笑顔のお薬を振りまいていたから、モニカにもそれを伝えたくて。笑顔には害がないし、みんなが元気になれるじゃないですか」

松岡「良い言葉だなあ……。でも、この言葉を、いきなり障害を持ってしまった自分の娘に対して言わなければならなかったお母さんの気持ちを思うと、複雑な気持ちにもなります……」

キヌ子さん「そうですね。それを言えるようになるまでにはやっぱり大変なこともありましたけど、そろそろ言い時だなと言うタイミングを見計らって、娘には告げました」

松岡「モニカさん、最初にその言葉を聞いたときはどう思ったんですか」

瀬立「最初は、何言ってんの? って」

松岡「タイミングを見計らって言ったのに、響かなかった?」

瀬立「実際に笑顔が大切だなと思ったのは、社会に出てからでした。

 ある日、電車で駅員さんの手を借りた車椅子の方が、ブスっとした表情のまま『ありがとう』と言っているのを見かけて、あれじゃ手伝ってくれた駅員さんも気持ち良くないだろうな、と思ったんです。

 それで、次に私が駅員の方にお手伝いいただいたときに、元気よく笑顔で挨拶したら、駅員さんもすごく気持ちが良さそうで、『これが笑顔の力だ!』と思ったんです。

 車椅子ってただでさえ人が寄ってこないのに、ブスっとしていたらますます敬遠されてしまう。気づく前の私も、きっとそうだったんですよ」

松岡「裏を返せば、笑顔に副作用はあるということだ。自分が笑顔だと周りも嬉しくなる。そんな良い副作用があるのかもしれない」

瀬立「(拍手)それ、グッドアイデアです!」

松岡「他にも『あきらめちゃいけない』とか、お母さんはモニカさんに伝えたい言葉をことあるごとに紙に書いてきた、とお聞きしています」

キヌ子さん「ちょうどこの前、昔に書いた紙がどこかから出てきたんです。水泳を一生懸命やっていた頃の約束ごととか。言葉にしたものが。『自分で考えて努力する』『つらい事・悲しい事があってもへこたれずにどんな時もベストを尽くす』『勉強も水泳も同じで、毎日が大事です。毎日・毎日の積み重ねがあなたの人生を、作るのです』――こんなことが書いてありました」

松岡「今読むと、また違った受け止め方になるんじゃないですか」

瀬立「お母さんの言っていたこと、大正解だな、ってその紙を見て思いました」

松岡「なんでその時に気づかないんだろうね。人って、色々苦労をしたり経験をして、ようやく思いが伝わってくることがよくあるじゃないですか。これは僕を含めてだけど」

瀬立「体験することが大事なんだと思います。たとえばコーチから、いくらこうした方が良いと言われても、実際に舟の上で自分がそれを感覚として掴めないと納得できない。体験したからこそ言葉がしみてくるというのは、競技でも人生でも同じなんじゃないかなって思います」

【次ページ】 松岡「旧中川の名称をモニカリバーに」

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
瀬立モニカ
松岡修造
東京パラリンピック
オリンピック・パラリンピック

他競技の前後の記事

ページトップ