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「スケートが好きと言えるように」
引退、復帰を経た高橋大輔の変化。
posted2019/01/21 10:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
その言葉は、耳にしてから時が経てば経つほど、重みをもって迫ってくる。
「自分はスケートが好きなんだ、と言えるようになりました」
2019年1月上旬。
現在発売中のNumber970号のインタビューで、高橋大輔はそう語った。その穏やかな表情に、思わず見入らざるを得なかった。
昨年7月、高橋の現役復帰の発表は大きな反響とともに迎えられた。2014年の引退発表前、最後に出た大会は同年2月のソチ五輪。試合から遠ざかっていた期間は4年をゆうに超える。しかも32歳で戻るということもあって、いやがうえにも注目を集めることになった。
それから半年。復帰初戦となった近畿選手権から西日本選手権を経て12月、高橋は全日本選手権に出場した。実に5年ぶりのことだった。
さらに出場だけにとどまらず、ショートプログラムで2位につけ、復帰会見の際に目標として掲げた「全日本選手権の最終グループで滑ること」を現実にした。フリーではジャンプでミスが相次いだものの、総合でも2位。2012年以来6年ぶりに表彰台に上がったのである。
かつては言えなかった言葉。
成績面だけを捉えても鮮やかな軌跡を描いたと言ってよいが、何よりも印象的だったのは、試合の前後や練習で見せる笑顔だった。
ひとことで表せば、いつも「楽しそう」だった。その表情は、内面の表れであるようにも思えた。
「スケートが好き」
そのひとことに、復帰してからの姿が重なり合った。そして「言えるようになった」ということは、かつては言えなかったことを示していた……。