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「スケートが好きと言えるように」
引退、復帰を経た高橋大輔の変化。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2019/01/21 10:30
昨年12月の全日本選手権では総合2位。ジャンプにミスはあったものの得意のステップでレベル4を獲得した。
ソチ五輪前の高橋は、苦しんでいた。
かつての引退前、ソチを目指した高橋の日々は怪我との戦いでもあった。
五輪シーズンの2013年11月末、高橋は右膝に重傷を負った。代表選出を受け、オリンピックへ向けて懸命の調整を続けたが、右膝は思わしくなかった。
いや、右膝の状態はその前シーズンから、痛みが出るなど万全ではなかった。練習にも影響を及ぼした。
「練習したいけれど我慢しなければいけなかったり」
打ちのめされそうになったこともあった。それでも退くことはなかった。そんな状況にあることを公にすることもなく、「怪我は自分のせいですから」と、人知れず戦い続けた。
日本代表として選ばれている以上、代表として背負う義務と責任があると考えていた。期待に応えたいとも思っていた。氷上で心から納得のいく演技がしたいという思いもまた、あった。
ソチを終えて語った、忘れられない言葉。
意のままにならないコンディションにありながら、誠実な姿勢を貫くことは、だが、過酷な日々を生むことにもなった。1日たりともケアを怠ることはできず、膝を意識せざるを得ない。それでも競技から離れるわけにはいかない。
そんな中で迎えたソチは、総合6位にとどまった。帰国後に右膝の慢性関節炎と診断を受け、翌月の世界選手権も欠場することになった。
そのソチの試合を終えて語った言葉は、ある意味象徴的でもあったし、強く記憶されてもいる。
「本当にぎりぎりでした。何回も心が折れました。そのたびにまわりから活が入ったり、自分でスイッチを入れたり。今はすごく楽です。治療をしていたし、焦りもあったし、頭が常にぐちゃぐちゃしていたのが今はすっきりして、すごい楽。久々に、ぼーっとしているなという感じで、もうすっからかんです」