松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER

修造、驚愕! パラカヌー瀬立モニカは
肩甲骨と頭の位置でバランスをとる。 

text by

松岡修造

松岡修造Shuzo Matsuoka

PROFILE

photograph byYuki Suenaga

posted2019/01/15 07:00

修造、驚愕! パラカヌー瀬立モニカは肩甲骨と頭の位置でバランスをとる。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

このキラキラと輝く水面は、中学時代から通う江東区の練習場。インタビュー時に、カヌーを漕いでみせてくれた瀬立モニカ。

「少し時間が経てば起き上がれると」

松岡「そんなシリアスなことをあっけらかんと言われると、どう捉えて良いのかわからなくなるんだけど、死ぬと思ったんですよね」

瀬立「息ができなくなって、やがて心臓が止まって、こうやって死んでいくんだなって」

松岡「どのようにして助かったんですか」

瀬立「少し落ち着いてきたら、息もちょっとだけ吸えるようになったんです。でも、自分では声を出せなくて、先生を呼びに行きたくても行けない。そしたら周りの友だちも異変に気づいて、『モニカがヤバイ』と。それで先生を呼んでくれたんですけど、私もあまり大事にはしたくなかったから、『ちょっと休んでいれば大丈夫です』って言ったんです」

松岡「なんでそんなことを言ったの。自力では立てなかったんでしょ」

瀬立「何ででしょうね。少し時間が経てば起き上がれると思っていたので。でも、授業が終わる頃になっても起き上がれなくて。これはもしかするとヤバイかも。それで保健室に連絡がいって、救急車で運ばれました」

松岡「まだあまり重大な事故とは思っていなかったんだ。今こうしてモニカさんと話していると、障害があるとは思えないくらい元気だし、今すぐ川に飛びこんで泳ぎ出しそうなくらいに見えます。でも、パラカヌーで言うと、モニカさんは3つのクラスでもっとも障害の程度が重いクラスに属する」

瀬立「下半身は動かせなくて、動くのは胸のあたりまで。そこから下は筋肉が麻痺しているような感じで動かせない。なんとなく感覚はあるんですけど、ぞうきん1枚挟んで触られているような感覚です。足をこうやって上げるのも、筋肉の痙攣を利用してむりやり動かす感じ。腹筋に力を入れることもできないです」

松岡「(心底驚いた表情で)腹筋が効かない? じゃあムリですよ。カヌーは腹筋とか体幹でバランスを保つものでしょ。どうやってバランスを取るんですか」

瀬立「私の場合は、肩甲骨のバランスとか、頭の位置で。それでバランスを保ってます。あとはこの筋肉。すごいでしょ(笑)」

 Tシャツをまくり、右腕の力こぶを作る瀬立さん。筋トレで鍛え上げた上腕の筋肉は見事にパンプアップされている。だが、話を聞いていて、なによりも驚かされ、感心させられるのは、彼女の明るさ。どんな話題になっても笑顔を絶やさない。「なんでも聞いて下さい」と朗らかに話す。

 質問を続ける松岡さんの放つ熱気は、実際のところ、本当にすごい。「松岡さんがいる場所は、気温がちょっと上がる」「松岡さんが海外取材に出かけると、日本が急に寒くなる」といった話があるようだが、この日もまさに松岡Day。前日が10度を下回る肌寒さだったのに、この日は20度ぐらいまで上がっていた。でも、このあたたかさは、松岡さんだけでなく、モニカさんの熱気も関係しているように感じられた。

(第2回につづく)

(構成・小堀隆司)

BACK 1 2 3 4 5
瀬立モニカ
松岡修造
東京パラリンピック
オリンピック・パラリンピック

他競技の前後の記事

ページトップ