プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
新IWGP王者棚橋弘至が見た風景。
来年の新日本は東京ドーム2連戦だ!
posted2019/01/08 18:30
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
棚橋弘至はケニー・オメガが場外で持ち出してきたテーブルに何度か視線を投げたが、拒絶するようにそれから目を離した。
棚橋にはわかりにくいプロレスはしない、というモットーがあった。初めてプロレスを見た人が疑問に思うことはできる限り排除しようと努めてきたのだ。
棚橋がオメガとのプロレスに対する考え方の違いをめぐって、品があるとかないとか、激しい舌戦を繰り広げたのは、記憶に新しい。
この時期の棚橋には、奇跡的に、いや運命という言葉がぴったりなくらいにIWGPという名のベルトを自分の腰に巻き直すチャンスが訪れていたからだ。
場外のテーブルへ飛ぶ、飛ばない?
1月4日、東京ドームには3万8162人の観客が詰めかけていた。4万人には及ばなかったが、棚橋は最上階まで埋まった壮観な風景に入場時から感慨深げだった。
棚橋がエースとしてこだわり続けた東京ドームのメインイベントから追われて3年。あきらめかけていたこのステージに戻って来られたことを素直に感謝した。
棚橋は昨年5月にオカダ・カズチカのIWGPに挑戦しているが、この戴冠に至るまで、結局4年ほども遠いところにい続けたわけだ。
かつては「IWGPは遠いぞ」と相手に向けて発していた言葉が、逆にずっしりと重く自分に返ってきていた。
オメガは仲間ではない。だからオメガが持ち出して来た場外乱闘用のテーブルを利用したところでまったく罪にはならない。
それでも結局……棚橋は思いっきり飛んでみせた。ハイフライフローの中でもテーブルに横たわる相手へのダイブは危険極まりないにもかかわらず、だ。
このチャンスを逃したら、もうIWGPは棚橋のところに、永遠に戻ってこないかもしれない……だから、棚橋は余計なイデオロギーを振り払う必要に迫られたのだ。