猛牛のささやきBACK NUMBER
金子千尋が自由契約前に話し込んだ、
オリックスの未来と自身の葛藤。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2018/12/14 08:00
金子千尋はオリックスで最多勝2回、最多奪三振1回、最優秀防御率1回、2014年には沢村賞、パ・リーグMVPを受賞した。
残り少ない現役を一番いい形で。
そうした葛藤の中、何を重視してこの先のチームを選ぶのかという問いに対しては、こう答えた。
「今まではどうすれば優勝できるのか、どうすればチームがいい方向にいくのかだけを考えてやってきたつもりです。今後は、やっぱりこの歳になると先のことを考えてしまう。残り少ない現役を、一番いい形でできるところかなと思います」
その結論が、日本ハムへの移籍だった。
もちろんオリックスは「残ってほしい」と残留を求めたが、「何が何でも」という空気はあまり感じられなかった。「どう思っているのかな? という思いはありました」と金子自身もその空気を感じているようだった。
若手が金子に持つイメージ。
金子の究極の理想は「27球で終わる試合」だ。シーズン後には断食をして体をリセットするなど、独自の感性や理論を持ち、35歳になっても妥協なく、理想のピッチングを追い求める球道者である。一方で、マウンド上で闘志をみなぎらせてチームを鼓舞したり、自分から周囲に働きかけて牽引するようなわかりやすいタイプのエースではない。
昨年の開幕戦は、金子と若月健矢がバッテリーを組んだ。それまで金子の登板日はほとんど伊藤光がマスクを被っており、若月と公式戦でバッテリーを組んだことはほとんどなかった。当時21歳の若月にとっては初の開幕マスク。首脳陣としてはエースの金子に、正捕手にと期待する若手捕手を育ててほしいという思惑があっただろう。
しかし金子は、若月のサインが見えづらいと顔をしかめ、サインが合わないといらだちをあらわにした。この日以来、金子と若月のバッテリーは一度も実現していない。
以前はマウンド上でほとんど表情を変えず、バッターを見下ろすように投げていた金子が、ここ2年ほどはマウンド上でいらだちを表情に出すことが多かった。それは思うようなピッチングができない自分に対するいらだちなのだが、周囲に緊張感を与えていたことは想像できる。
オリックスの若手投手が金子について話す時、お決まりのようにこんなふうに言う。
「金子さんは、最初は壁を感じて話しかけづらかったけど、なにか聞いてみると、すごく優しく、詳しく教えてくれるんです」
最近では、今年、外野手から投手に転向した張奕(ちょう・やく)がそう語っていた。